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死んだ息子が生きていると思っているアルツハイマー型認知症の女性

 

 特別養護老人ホームに入居していたKさんは90代前半の女性で、アルツハイマー型認知症です(参考記事「認知症の中でも一番多いアルツハイマー型認知症の症状は?」)。80代の頃に自宅で大腿骨骨折をして寝たきりの生活が続いた末、認知症が発症。

 そこから急激に物忘れや暴言、介護拒否が始まり、大腿骨骨折が完治した頃には日常生活自立度Ⅲa(日中、日常生活動作が自立してできない状態。介護者の負担が重くて自宅介護が困難な状態)の状態で、施設に入居してもらう他がありませんでした。

 Kさんは自宅に住んでいたころは、夫、息子夫婦と孫の2世帯で住んでいました。孫も成人していたため、介護には協力的でした。息子夫婦は共働きでしたが、息子の妻がパートを辞めて日中介護を行っていました。

 Kさんはもともと息子の妻との折り合いが悪かったため、認知症がひどくなるにつれ、(特にお嫁さんに対する)暴言が多くなり介護拒否も始まりました。日常生活自立度Ⅲaの状態がしばらく続いた後、特別養護老人ホームへ入居できることになりました。

 自宅介護では介護者が「ご本人ができそうなことを見付ける、またはやってもらう」という時間がほとんどありませんでしたが、施設では自分でできることは自身でやってもらっていました。その甲斐もあって、起床時間が増え、体調がいい時は車椅子を自走でき、洗濯物を畳むなどの日常生活に必要なことをすることができています。それは非常に効果的だったようで、数か月すると暴言はほとんどなくなりました。

 また、以前より物事を忘れるまでの期間が延びていきました。介護拒否もなくなり、穏やかなKさんを取り戻したようです。

 しかし、入居生活を重ねるにつれ、自宅へ帰りたいと漏らすようになりました。時には深夜に職員に泣きながら寂しさを吐露します。Kさんが入居している施設の職員Sさんは非常に親身に寄り添ってくれる方でした。夜勤でないときも、利用者が寂しいと泣くときは深夜まで抱きしめて寄り添うことも多々ありました。そのためか、Kさんは翌朝起床すると帰宅願望はリセットされていることが多かったです。

 また、Kさんは亡くなった方に関して思い出深く語ることが多かったです。若くして亡くなった息子や数十年前に事故で亡くなった近所の方などについてよく語り、ご本人はその方々が生きているものと思っていました。

 世間的な事実としてはその方々は亡くなっていますが、Kさんにとっては「現実」です。否定せずに話を促すと楽しそうに思い出話を続けていました。認知症の方に関しては真実・嘘に関わらず、肯定し、受け入れることが重要とされています。ご本人の世界を否定せずに、崩さないように接することが重要かと感じます。

 しかし、認知症の方と接していると、「言葉のみで肯定しても足りてないのではないだろうか」と感じます。ご本人の世界観を理解し、受け入れ、一緒に喜怒哀楽を感じることが最も大切にすべきことかと思います(先ほど登場した職員Sさんのように)。

 介護者が少ない現状では一人一人にそういった対応で向き合うのは非常に困難なことかと以前は思っていました。しかしKさんが亡くなった際に通夜へ参列していた職員の方々が涙を流し、最期の言葉を伝えているのを見て、不可能なことではないのだろうと考えを改めました。

 介護者が心の底から相手を受け入れれば、相手にもそれは必ず伝わっています。介護福祉士は最期を看取ることも少なくない職業です。介護福祉士はそれを理解し、利用者の方々が悔いなく旅立てるように利用者の生活や身体面、精神面を適切にフォローしていく必要性を感じます。

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