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幻覚(ジャングル)が見えると訴える認知症の人への対応例

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 会計士だった認知症のヤスジさんは、会話が成り立つだけでなく、語彙がとても多くて、社交的です。老人ホームの人気者で、新しく入ってきた患者さんのご家族は、ヤスジさんを入所者の家族と勘違いしてしまうほどです。それでも、2~3分も話していると、やはり辻褄が合わなくなってきます。

 ヤスジさんには幻覚の症状があります。普段は女性に優しく、良く通る声で活発に話しかけるヤスジさんですが、ジャングルが見えると、目が大きく見開かれ、ストップモーションになります。「あそこにいる。」ヤスジさんには茶色い肌の女性が見えています。

 「ジャングルが見える」とヤスジさんは言います。亜熱帯地方にしか生息しないような大きなシダの葉の横に、茶色の肌の女性が鮮やかな緑色の民族衣装を着て立っていて、その女性の頭には小さな生きたへびが巻き付いていると訴えています。ヤスジさんの幻覚の描写は細かいので聞いているこちらも、イメージがビジュアル化して湧いてしまうほどです。

 問題なのは、この茶色の肌の女性が襲い掛かってくるような気配があるようで、危険を感じるヤスジさんがディフェンスの為に暴れることです。84歳でとはいえ、身体が丈夫でガタイもいいヤスジさんに暴れられると大変です。

ジャングルとヤスジさんの関係性は

 ご家族の話では、ヤスジさんとアフリカや亜熱帯地方を結びつける過去は、特に思い当たらないそうです。幻覚は認知症を患ってからのことで、一時は薬の副作用ではないかという意見も出ました。しかし、薬を変えても同じジャングル、同じ女性が出るようなので、やはり認知症の症状のひとつなのでしょう。

 ご家族は、最初の頃、ヤスジさんの認知症を受け入れることに苦労されました。ジャングルの幻覚は、ぼちぼち始まっていたのですが「何言ってるの?」と真っ向から正論で諭そうとしたそうです。その場合、はっきりと見えているヤスジさんからすれば「そっちこそ、何言ってる」となるわけです。こういう対応の仕方はまずいのです。

幻覚に対する対応例

 ヤスジさんの脳がスクリーンに映し出すジャングルが、油断のならない危険なものなので、ヤスジさんは心が休まりません。認知症の人の幻覚や錯覚、幻聴は「そんなのは、ありません」と否定するのではなく、「見えます。でも、大丈夫です」と言い続ける対応をするしかありません。

 朝のトイレの失敗や、食事の時にストレスを感じていた日などは、気ががグッと短くなっています。そんなところにこの幻覚が出ると、やはり男性スタッフの手が必要になります。薬で落ち着いてもらったこともありますが、それは最終手段です。

 ヤスジさんの幻覚は、ジャングルが例えば部屋の窓付近に出現した場合、ずっとそこに留まって、移動しないのです。その場合には「ヤスジさん、ちょとこの数字を見て下さい」と視線をこちらに向けさせようとしても、「あ、出口に鳥が見えました。行ってみましょう」とヤスジさん自身を移動させてみても、やはりヤスジさんの視線は窓付近に戻ってしまいます。そこだけ一部がジャングルで、女性の頭には蛇が乗っているのでしょう。

 幻覚は、短いと5分ほど、長い時は30分以上も続くことがあります。
「わかりました。でも大丈夫です。すぐ消えます。大丈夫です。女性は何もしません。蛇も何もしませんよ」目を見開いて、身体を固くしているヤスジさんの心が少しでも休まりますように、ジャングルが消えるように言い続けます。目線の先の蛇退治のため、そのあたりに消臭スプレーを掛けることもあります。

 ヤスジさんは、その後認知症が進行し、以前のように詳しく描写することはなくなりました。言葉が出にくくなった分、もどかしさが増して、暴れる頻度が多くなるかなと予想しましたが、なぜかジャングルが見える幻覚の頻度は少なくなったようです。

[参考記事]
「レビー小体型認知症の症状である幻覚とパーキンソン症状」

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