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生活環境の変化により認知症の症状が悪化した事例を紹介

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 認知症は環境が変われば一気に進行することがあります。介護施設への入所は、これまでの生活スタイル、交流関係、食事、部屋の様子などありとあらゆるものが一変する「とても大きな生活環境の変化」です。高齢者施設への入所をきっかけに、これまでになかった症状が発症するのは、珍しいことではないのです。

入所を境に症状が悪化したYさん

 Yさん(87歳、女性)は裕福な家庭の方で、長年住み慣れた自宅で一人暮らしをしていました。歩くときに杖が必要なものの、足腰は丈夫で、買い物、食事、排泄等、生活のほとんどを自身でできる、まさに健康な高齢者でした。それでも、最近は外出時に鍵を閉め忘れたり、ガスを消すのを忘れると言ったことが多くなり、子供さんが心配して、私たちの老人ホームへの入所を決めました。

 入所する時はにこにこと穏やかな表情をしていたYさんの様子が一変したのは、入所日から三日後の夜中でした。突然部屋から出てこられ、夜勤スタッフに「今日はありがとうございました、そろそろ帰りますのでタクシーを呼んでください。」と言われたのです。

 スタッフは「そうですか、今は夜中でタクシーもすぐには来ないので、せっかくだから朝までゆっくりとお休みなってください。」と言ったところ、Yさんは「え、そんな時間になっていたのですか、長い時間お邪魔してたのですね、それでは今日はお言葉に甘えてそうさせてもらいます。」と言って部屋に戻られました。

 認知症への対応で一番重要なことは、「相手の言っていることを否定しないこと」です。Yさんは、「どこか知らないところで眠ってしまった、そろそろ帰らないといけない」と認識していますので、その時、いきなり知らない夜勤スタッフが「あなたはここで生活しているですよ。帰るところはここですよ」と言ったら、余計に混乱させる可能性が高いのです。

 その日を境にYさんの認知症は目に見えて進行していきました。部屋に設置しているトイレの場所が分からずに失禁するようになりました。帰宅願望も強く、時間の認識も曖昧になっていきました。なかでも、一番大きく変わったのがYさんの性格です。上品で穏やかだった方が、非常に怒りっぽくなってしまったのです。相当のストレス、不満がYさんの中に溜まっていたでしょう。

人は思い出とともに・・

 Yさんにどのように接するべきか。まず、私たちが行ったのは、家族の方にできるだけ、Yさんの自宅にあったものを持ってきてもらうことでした。チェスト、時計、小物入れ タオルやパジャマも以前から使っていたものを届けてもらいました。

 親を高齢者施設に入所させるとき、家族はできるだけのことをしようと、新しいものを購入します。しかし、このことが認知症を進行させる要因になるのです。可能な限りこれまでの生活の場に近い状態にすることで、生活環境の変化を少なくし、少しずつ「ここが新しい居場所である」ことを理解してもらうことはとても大切なことです。

 真新しい白いクロスが貼られた部屋に不釣り合いなよく使いこまれた調度品。その色あせや汚れ、軋みの一つ一つがYさん思い出であり、人生そのものなのです。Yさんは時々「ここが私の部屋なのね」ととても寂しそうに笑います。今は、トイレもきちんとできるようになり、穏やかに過ごしていらっしゃいます。

認知症対応は難しいです

 高齢者の認知症の大部分を占めるアルツハイマー型認知症。それは現代の医学では完治することはできないと言われています。しかし、その人を理解し、環境を整えれば、日常生活に支障を及ぼすような周辺症状は緩和されることを、私たち介護職員は実体験として知っています。

 ただ、それは絶対的方法があるわけではなく、すべてのケースでまさに手探りをしながらより良いものを作り上げていく根気が必要な作業です。そして、良い結果が得られないことも少なくはないのです。高齢者の方が少しでも幸せに過ごせるように、頑張っていこうと思います。

[参考記事]
「認知症の周辺症状ってどんな症状なの?」

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