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懐メロを活用して認知症の改善を行なうデイケア施設

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 いま流行りの歌はよく分からないけど、青春時代の歌はよく覚えている。イントロが流れるだけでパッと当時の思い出が甦り、その頃の歳はいくつで、どんな毎日を送っていたか、どんな世の中だったのか、瞬時に思い出せる。

 そんな人の為に私が働いている介護老人保健施設のデイケアでは、月曜日から金曜日の毎日1時間日課となっているのが「懐メロを歌う会」です。昼食後に13時からおよそ1時間ピアノで生伴奏をし、10曲~15曲程度の懐メロを皆さんで歌うという会です。カラオケでは無く、毎日ピアノ伴奏による歌の会で、「生伴奏」ということが人気の理由の一つでした。高齢の皆さんの歌うスピードに合わせられる事、ズレてしまっても修正が可能という点が、皆さんが気持ちよく歌って頂ける人気の秘訣です。

 歌のメニューは、童謡では無く大人の懐メロ。
「青い山脈」「船頭小唄」「影を慕いて」「星影のワルツ」「赤と黒のブルース」など、実に100曲ほどありました。年齢の幅があると青春の曲も違うでしょうが、「鉄道唱歌」や「カチューシャの唄」などの明治・大正の歌から、「津軽海峡冬景色」「北の宿から」「昔の名前で出ています」「みちづれ」などの昭和50年代の曲まで、皆さんが歌えておりました。認知症の方には難しいかも?という不安もありましたが、よく耳にしていた歌ですから歌えるのです。

 あくまで自由参加ですので、手工芸をされている方もいれば、午睡されている方もおり、広いデイルームのスペースとは言え、ピアノの音と歌声が鳴り響きます。しかし、歌に参加しない方からも苦情は来ていません。すでにこの会を始めてから16年ほど経過しています。重度の認知症の方も、この1時間だけは徘徊もせずに椅子に座って楽しんで参加され、表情も良いのが見受けられます。

 音楽療法で認知症の症状が改善した過程を追いかけた「パーソナルソング」というドキュメンタリー映画があります。この時に行なわれたのは「昔の曲を聞いて、昔のことを思い出すことによって脳を活性化させる」という手法です。我々が期待している効果も同じです。

<配慮する点>

 軍歌が好きな方もおられますが、この会では「軍歌」はメニューに入れておりません。軍歌を聴くと戦争の辛く悲惨な記憶が思い出されて嫌だという意見があったからです。もちろん、軍歌が好きな方が大勢いれば軍歌も入れても良いと個人的には思っています(大勢の英霊のお蔭で我々はこうやって生きていられるのですから)。戦後に生まれた私たち介護スタッフと利用者の皆さんとは大きな年の差があり、この歌の会を担当して初めて知る歌がほとんどでした。

 そんな中、この歌の会の伴奏者である私が失敗してしまった例があります。それは「あゝモンテンルパの夜は更けて」の伴奏をした時の事でした。譜面だけを見て伴奏を弾き始めたところ、歌の入りで利用者の皆さんの声が聞えてこないのです。すると、ひとりの利用者の方が私にこのように話してくれました。
「あなたは軽快に弾いているけど、この曲はもっとゆっくりで、悲しい歌なのよ。」え??モンテンルパというタイトルさえ正しく言えて無かった私。もちろん、この歌がどんな歌詞なのか意味や背景など考えてもいませんでした。

 「あゝモンテンルパの夜は更けて」歌・渡辺はま子
昭和27年第二次世界大戦から7年経っても、フィリピンのモンテンルパ市の刑務所には戦争犯罪者として多数の日本軍兵士が収監されていました。その日本軍兵士が作詞と作曲をしたのがこの曲です。多くの日本軍兵士が死刑されている中、明日は我が身と誰もが恐怖と戦いつつも、日本への望郷の念を込めて作られた歌なのです。この歌を励みとして一日一日生きていた…。渡辺はま子さんは実際にモンテンルパ市の刑務所に行って、「あゝモンテンルパの夜は更けて」を歌っています。

 このような背景を知り、他にも歌の背景を知るという事がとても重要であると学びました。この会の伴奏者としての私の意識が大きく変わりました。

<まとめ>

 大正・昭和という混乱の世を生きてきた大先輩たちは、「青春時代」と言っても我々との感覚とは全く違い、自分の為に過ごした青春などは無かったでしょう。生きるために、あの歌を歌いながら励ましあった。家族を守るために、あの歌を歌いながら戦中戦後を生き抜いた、そんな重さがあるということを理解せねばなりません。

 1曲ずつ背景も知った上で、1時間のメニューを決める事が大事です。戦時中の歌も歌えば、昭和のムード歌謡や演歌も歌う。その歌の思い出や、歌手についてのお話も伺ったりと参加される利用者の皆さんに充実した時間を提供する事が大事です。毎日聴いているスタッフはもちろん懐メロ大好きになり、世代を超えた名曲の数々を一同で楽しめます。

[参考記事]
「認知症高齢者への音楽療法の効果。ピアニストを呼んで演奏会」

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