Read Article

広告

性格まで悪くしてしまう認知症は怖い

 

 私が勤務しているデイサービスに通って約3年になる80代の女性利用者のNさんはご主人と二人暮らしで、近所に息子さんが住んでいます。

 認知症と診断されていますが、デイサービスに通って最初の頃は特に問題を起こすことはなく、記憶力が少し弱い程度でした。昔からバリバリ営業の仕事をしてきて行動派で人の世話を焼くのが好き、現在もじっとしているのは性に合わないと畑仕事に精を出しています。

 性格はせっかちで、口調は割ときつい方ですが「それがNさんの性格だから」と周囲は把握しているので特にいざこざもなく、デイサービスの利用をしていました。

 Nさんはデイサービスの利用が長い事もあり、新しい利用者が入ると持ち前の世話焼きでデイサービスの事や自分の事を色々と教えています。なかなかのマシンガントークなので耳の遠い方との交流は本人が大変そうでしたが、他者との交流が好きで、ある意味ムードメーカー的存在でした。

 ですがある時を境に「それがNさんの本当の性格なのか?」とNさんの性格に疑問を抱くような事が起きました。

広告

突然、性格に変化が現れた

 Nさんは元々穏やかに話すタイプではありません。口は悪いが気は良い、という言葉が似合うような方でしたが「Nさんの性格」として把握しているスタッフや他利用者はNさんの口調に関して何も言いませんでしたし、Nさんに積極的に話をしている方もたくさんいたので、デイルームはいつもにぎやかな状態になっています。

 その日もいつものようにデイルームで井戸端会議が行われ、話題は自分の足腰の話題でした。足が痛い、あまり歩けなくなったなど利用者が話す普通の会話でしたが、とある利用者が「こんな身体じゃあ生きていける気がしないよ」と弱気な発言をしました。その方も認知症があり、毎回同じ話題にはなりがちですが話をするとすぐに落ち着く、穏やかな性格の方です。

 いつものNさんであればこの発言に対し、「そんな事言うもんじゃないの!しっかりしなきゃ!」と相手を鼓舞するような言い方をするのですが、この日は違いました。「だったらさっさと死ねばいいのよ!聞いているだけでイライラする!」と突然の大声にスタッフも周囲も驚きました。本気で怒っているぐらいの声量で、Nさんがテーブルをたたきながら相手を突き放す発言をしたのです。

 これを聞いた相手の利用者はあまりの剣幕に泣きだしてしまったのです。その様子を見ていた要支援の認知症のない他利用者は「そんな言い方しなくてもいいでしょ?」とNさんを注意しましたが、Nさんはその方にも「うるさい!」と怒鳴り返したのでスタッフが急いでその場に入りました。

 Nさんはその後、いつも通りの状態にはなりました。しかし、「あんなNさんは初めて見た、怖かった」とNさんに対し、恐怖心を抱くようになってしまいました。

 その日、たまたま機嫌が悪かっただけかもとNさんの事は様子を見る事にしましたがそれ以来、Nさんはまた他の方に怒鳴り、「死ねばいい!」と暴言を吐く事が毎回続いてしまいました。さすがにこの状態では他の方を傷つける、と管理者へ報告し、ケアマネジャーへの報告となりました。

デイは退所となり、認知症ケア専門デイへ

 ケアマネジャーに連絡をすると「他のデイサービスでも同様の事があった」という情報が得られました。口が悪いのはNさんの性格、とは思っていましたがさすがに行き過ぎたものがあり、ケアマネジャーは息子さんと相談し、Nさんは受診をする事になりました。

 結果はNさんの認知症が進行しているとの事でした。今までは軽度で済んでいたNさんの認知症は急に進み、性格に変化が現れたという事です。

 普通のデイサービスでは対応が難しいかもしれない、と息子さんとケアマネジャーで判断し、Nさんはデイサービスを退所し、認知症ケア専門のデイサービスへ行く事になりました。

 ムードメーカーであったNさんがいなくなってしまうのは寂しい事ですが、このままではNさんに傷付けられる方も出ますし、Nさんも孤立する事になってしまうので仕方がないと思う結果でした。

 後でNさんと仲の良かった人が言っていた言葉ですが、「口は悪かったけど根は良い人だったのに、性格まで悪くしてしまう認知症は怖いね…」。聞いた時は同感だと思いました。

[参考記事]
「認知症の人が夜に大声(奇声、叫ぶなど)を出す場合はどうしたらいいの?」

URL :
TRACKBACK URL :

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

Return Top