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認知症によりペット(猫)の死が理解できない事例と対応

 

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これまでの経緯

 これまで大きな病気をされたこともなく、ご主人とみかんの畑を作られてきた80歳代女性のTさんは、数年前にご主人を亡くしてから現在までお1人で自宅で生活されています。

 夫を亡くしたショックからなのか、時期を同じくして記憶の障害や見当識障害がみられるようになったため、長女が新幹線で片道約1時間をかけ、毎週土日の介護を行う、いわゆる遠距離介護をしている現状です。

 このため、長女の自宅近くの特別養護老人ホームへの入所申し込みを済ませていますが、空きがなく、待機待ち状況となっています。

 現在は、待機の間を、夫との思い出のある自宅で過ごさせてあげたいという長女の思いから、朝と夕方の訪問介護サービスと、昼食の配食サービスを利用されています。

飼い猫の死

 Tさん宅には、3~4人が1チームとなったホームヘルパーが、毎朝夕を交代で訪問し、主に起床・就寝の介助と食事作り、ゴミ出し等の生活の介助を行っていました。

 このように少数のヘルパーさんが交代で介助にあたっていたこともあり、飼い猫のクロはヘルパーさん達にも慣れ、じゃれてくることが日常風景となっていました。

 ある朝、いつものようにTさん宅を訪問したヘルパーのAさんは、飼い猫のクロが見当たらないことに気づきました。Tさんに「クロは?」と尋ねると、「こたつの中だよ」との回答があったので、Aさんは、寒いからかなと思い、「猫はこたつで丸くなる♪」と鼻歌を歌いながら朝ごはんを用意し、その後いつものように訪問記録へ書き込みを始めました。

 あらかた記録を書き終えたとき、クロは元気かな?とこたつの中を除くと、確かに丸くなったクロが居ましたが、ピクリとも動かないクロがそこに居ました。

 驚いたAさんは、Tさんに「次の訪問へ行くからまた夕方ね」と言って、慌てて外へ出てきてしまったと聞きました。実はその後の訪問は無く、ステーションで事務作業をすることになっていたAさんは、サービス提供責任者へ「飼猫が死んでいること」を報告し、対応を検討することになりました。

どのようにTさんを納得させるか?

 その場にいる他チームのホームヘルパーも交え、さまざまな協議が行われましたが、クロはこたつで温まっているだけと思っているTさんに、納得してもらうことは困難であると結論付け、Tさんに分からないようにお庭へ埋葬することを決定しました。

 この決定をTさんの長女にも報告し、了解を得たため、本夕方に実行することとしました。夕方、いつものヘルパーのチーム員と新人職員を装った私の2人が訪問し、Tさんのすきを見て、こたつで亡くなっているクロを連れ出し、お庭の片隅に埋葬しました。

Tさんへのその後の支援

 Tさんを介護するヘルパーチームは、翌日からも朝夕の訪問を継続していますが、そこでTさんから「クロがいなくなった」という言葉は一度も聞くことがありませんでした。

 長女さんも「クロはどこ?」と聞いてみたそうですが、Tさんは「お散歩かしら?窓を少し開けておいて。」と亡くなったことは把握していない様子とのことでした。

 今回、Tさんを介護するホームヘルパーチームは、苦渋の決断をし、Tさんと亡くなった飼い猫のクロを引き離すことを実行しましたが、ずっとあのままであったら、衛生的にも悪く、なにより認知症のTさんを余計に混乱させてしまうことになったと思われます。

 認知症高齢者への直接的なアプローチではなく、環境を整えることで混乱なく落ち着いた生活を送っていいただくという、ペットブーム下における今後も発生し得るであろう1つの事例となりました。

[参考記事]
「認知症の代表的な4種類を解説(アルツハイマー型認知症など)」

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