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[認知症介護] 妄想を伴う帰宅願望に対する対応

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 介護施設で働いていると多くの認知症の方と接します。高齢者の認知症の大部分を占めるアルツハイマー型認知症はアミノイドβやタウというタンパク質が溜まったり、海馬が委縮することで発生する病気です。その症状の現れ方は人によって様々で、記憶障害から過去の出来事と現在との区別ができなくなり、突拍子もない行動をされることもすくなくありません。帰宅願望はそんな症例のひとつです。

帰宅願望とは

 帰宅願望とは施設等、今いるところから慣れ親しんだ我が家に帰りたいと訴えることが主ですが、我が家に居ながらもどこかに帰りたいと言うこともあります。入居者の中には本人の希望ではなく、家族の都合で自宅を離れ施設に入居される方が少なくはありません。むしろその方が多いのが実情です。

 ごく一部の高級な有料老人ホーム以外は、基本的には決められた時間に皆と同じメニューの食事をみんな揃って食堂で食べます。自分が食べたいものを食べたい時間に食べれるわけではありません。まさに集団生活です。そんな生活に慣れていない人にとっては、決して居心地のいい場所とは言えません。また、今まで付き合いのあったご近所さんや親しかった友達もそこにはいません。窮屈さや寂しさから自宅に帰りたいと思うのは当然ですよね。帰宅願望はとくに入居直後に強く起こります。

帰りたい場所、それは時の彼方

 帰宅願望で帰りたい場所は、入居直前の自宅とは限りません。帰宅願望の強い方をご家族の協力で一時、自宅に帰したところ、「ここは私の家じゃない」と言うことは少ないないのです。その方の帰りたい場所は、既に存在していないかもしれない「思い入れのある場所」なのです。それは子供時代を過ごした家かもしれませんし、ご主人と初めて過ごした新婚当時の部屋かもしれません。すくすくと育つ子供たちと笑い合った居間ということもあるでしょう。その方の思い入れの強い場所に帰りたい、そんな帰宅願望もあるのです。

 次で紹介するSさん(80代女性)のようにタダの帰宅願望とは違い、妄想が合わさったケースもあります。

子供が待っている ~Sさんのケース~

 Sさんは、一時、病気のため入院をされ、施設に戻られた時には認知症が一気に進行していました。高齢者にとって急激な環境の変化は好ましいものではありません。Sさんは病院から帰られた直後から、幻覚が見えるのか「子供がそこで遊んでる、危ないから見たって。」「京都から子供が来てくれた」等そんな話をすることが多くなりした。

 ある日、Sさんの部屋からのナースコールがあり行ってみると興奮してベッドから片足を降ろそうとしているSさんの姿がありました。Sさんは足が不自由で自立はできません。このままでは大けがをする恐れがあったので急いでSさんをベッドに戻し、話を聞いたのです。Sさんは「子供が迷子になって警察に保護されているねん。だから迎えに行ってから家に帰るねん。ここから出してえな」と私の腕を驚くほどの力で握り叫び続けられました。認知症の方の話を頭ごなしに否定するのは一番してはいけないことです。私は「最寄りの警察に確認を取るからちょっと待ってて。」と言い、部屋を出ると別の介護士に見守りを頼みました。少し時間を置いてからSさんに「最寄りの警察とは違う警察が担当みたいです。他の警察にも確認をするから、時間がかかるのでそれまでここで待っていてください」と伝えたのです。Sさんは納得したのか目を閉じそのまま眠りました。Sさんをだましたようですが、介護士ができることはこのくらいしかないのです。

決して叶うことのない願い

 認知症は現代の医療では治療方法はなく、時間とともに確実に進行します。そのため、Sさんの帰宅願望のように一時しのぎ的な対応しかできないケースも多いです。

 「こどもが待ってるねん、タクシー呼んでえな」今日もSさんの声が響きます。決して叶うことのない悲しすぎる願い、それと向き合うことも私たち介護士の大切な仕事です。

[参考記事]
「認知症の中でも一番多いアルツハイマー型認知症の症状は?」

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