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暴力が激しい認知症の父を思い出の公園に連れて行った結果

この記事は介護施設に勤めている30代の女性に書いていただきました。

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 Aさん(80歳・男性)は数年前からアルツハイマー型認知症の症状が出ており、日中はデイサービスへ行っていますが、夜間は奥さん(80歳)が一人で介護していました。しかし、介護者である奥さんの高齢化(老老介護)とAさんの認知症の症状が顕著になっており、在宅での介護が困難となりました。

 そこでAさんは特別養護老人ホームへ入所することになりました。Aさんは入所してしばらくは施設へ馴染むことができず、ご飯を食べたのに、「ご飯たべてない!」と怒鳴ったり、職員への暴言や暴力が続きました。その症状は1カ月ほど経つと徐々に減っていき、そこからしばらくは、穏やかに過ごすことができてきました。

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認知症が進行する

 しかし、ある日の夜、急に症状が変化してきました。Aさんは夜間、トイレが分からず他の人の部屋に放尿したり、寝ている他の利用者の上に覆い被さるようになりました。家族の方へ連絡をしてみても、家ではそのようなことはなかったということだったので、病院へ検査に行くと、医師からは「海馬が5分の1まで縮小している」と言われました。その日辺りからAさんの症状は急激に悪化していきました。

 暴言、暴力は日常茶飯事で、自分の家族がきても判断がつかなくなり、「お腹がすいた!」と言って自分の紙パンツを食べてしまう事までありました。

 職員も、お手上げ状態でどうしたらいいかわからなくなってしまい、Aさんにきつく当たってしまうこともしばしばありました。落ち着いているときは、本当に穏やかな表情で、自分の若い頃や仕事の話などをよくしてくれましたが、次第に家族の方はAさんに面会に来なくなってきました。

思い出の公園へ連れていった結果..

 そんな状態が2カ月くらい続いたある日、家族の方から電話があり、1回外出してみたいと言われました。認知症の症状もかなり進んでおり、外へ出ることの不安もありましたが、家族からの要望ということもあって、日程を職員が調整し、外出をすることに決定しました。

 Aさんには前もって伝えていましたが、外出前日に聞いてみると「どこもいかないよ!」と外出することはすっかり忘れているようでした。そして当日、Aさんと奥さん、娘さん、職員の4人で公園へ出かけました。

 Aさんは最初出かけるまで「どこへ連れて行くんだ!」「帰る!」と叫んでいました。しかし、公園へ着いたとたん態度が一変しました。聞くとそこは奥さんと何回も散歩へ行ったり、娘さんが小さいとき一緒に遊んでいた公園だったという事でした。

 公園のベンチへ座ると、Aさんは懐かしいものを見るように目を細めて、遠くを見ながら「この間、ここへ家内と来たんだ。。。」と奥さんが隣にいるにもかかわらず、独り言のようにつぶやき、それを聞いた奥さんは泣いていました。それから30分ほど、ベンチにはAさんと奥さんだけの時間が過ぎていきました。

 施設に戻るとAさんは、それまで通り、怒鳴ったり暴力が出ていました。それでも、Aさんの心の中には、家族との楽しい思い出の時間があることを再確認することができました。奥さんも娘さんも「あんな表情は本当に久しぶりに見ました。ありがとうございます。」と言っておりました。

 若いころ聞いた音楽を聴くとその時の情景が思い浮かびますが、これは脳を活性化させるということで認知症の方に対しての音楽療法として行われていますそれと同じように「昔訪れた思い出の場所」でもその当時のことを思い出して脳の活動が活発になるのでしょう。今回の外出を企画して本当に良かったと心から思いました。

[補足]
認知症の方が松田聖子さんの曲に反応して、トントンリズムを取った話を以下の記事で紹介しましたが、音楽とは奥が深いですね。

「統合失調症と認知症を合併している人に対する対応の仕方」

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