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看護師を気遣って徘徊を繰り返す90才の認知症女性

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夜中に暴れ出したAさん

Aさん(90才の女性)は消化器疾患で入院をしましたが、認知症があるため入院していることを理解できていないようでした。
私は看護師として内科病棟の経験が長いので、認知症の患者様は多く見ていましたので、90代で認知症のある方はさほど珍しくもありませんでした。

Aさんは認知症はあるものの、終始穏やかでした。
スタッフの顔を忘れたり、食事したことを忘れてしまうことはありましたが、治療にも協力できており、大きな問題行動はありませんでした。

しかし、ある夜Aさんは「私帰ります」と大騒ぎしたのです。
夜といっても2時や3時の真夜中です。
当然看護師は「ここは病院」「この時間に退院はできない」と説明しますが、説明すればするほど「もうやめて!あんたたち何するの!私は帰るのよ!」と暴れました。
結局部屋を移動し、鎮静剤を使用し、眠らせることで落ち着きましたが、その日から夜になると「やめろ!帰る!」と騒ぐようになってしまったのです。
そのたびに鎮静剤を使用しますが、高齢者にとって鎮静剤のコントロールは難しく、全く効果が得られなったり、逆に効きすぎてしまい、ぼーっとしてしまったり、悪影響も多いのです。

声のかけ方を変えるだけでAさんに変化が

私はAさんの行動をよく観察しました。
Aさんは、たいてい排泄の為に歩いていることが多かったのです。
昼間の行動もよく見てみると1時間に1回ほど排尿をしていました。
ある時、夜勤をしているとAさんは消灯後も1時間に1回覚醒します。
「夜だから寝ましょう」ではなく、Aさんに「お手洗いですか?」と声をかけました。
Aさんは
「ええ、まあ、恥ずかしいけど、夜だけど、ねえ」
「歳だから夜もトイレに行きたくなっちゃうの。でもみなさん起こしたら悪いから、おうちに帰ってトイレいこうと思って。」
と話されました。
自宅は歩いて帰れるような場所ではありません。
杖で歩く事がやっとであり、無理な話なのです。
私は、きっと排泄の為に夜中に起きているのであろう、と予測はしていましたが、Aさんが私達に気を使って、自宅に帰って排泄をしようとしているとは思いませんでした。

Aさんと会話をして落ち着きを取り戻す

私はAさんに「私たちは夜に仕事をするために来ているので大丈夫ですよ」と声をかけ、トイレへご案内しました。
Aさんは「あら、そうなの?悪いわ」と言いながら、排泄をすまし、ベッドへ戻りました。
このやりとりが1時間に1回朝まで続きます。
すると、明け方Aさんが今度は少し強い口調で、「やっぱり帰ります。申し訳ないから」と言いました。
私は、このままでは暴れるかもしれないと思い、まずAさんをナースステーションへご案内しました。
そして温かいお茶を入れました。
するとAさんは色々な話をしてくれました。
若いころは手縫いで振袖を縫って、デパートにおろしていた。
戦争中は大変だった、とか。
私の顔はすぐに忘れてしまうAさんでしたが、70年前のことを昨日のことのように話します。
そして、「長居しちゃったわ。あなたもね、若いから頑張って働いているけど、体だけは大事にしなきゃダメよ。もう寝なさい」
と優しく言ってくださいました。
私は今の時間は
仮眠しているはずでしたが、Aさんの眠りが浅いため起きていただけだったので、なんだか笑ってしましました。

それから、Aさんは相変わらず認知症による物忘れがあり、スタッフの顔は覚えられない、病院の名前も分からない、トイレの場所も分かりません。
「私は病気じゃないのに。ここに置いてもらって」と笑っています。
しかし、暴れることは無くなりました。
「申し訳ないわ。若いあなたたちに迷惑かけて。もう寝なさいよ」と夜勤の看護師へ言いながら1時間に1回起きてはトイレへ行くことを繰り返しています。

いつもの作業を取り入れる

Aさんはご自宅にいるときには毎日デイサービスへ通っていたようです。
病院では、レクリエーションのようなものはありません。
私はAさんがメモ帳で折り紙をしているところを見て、昼間に一緒に折り紙をする時間を作りました(折り紙はデイサービスでやっていたのだと思います)。
Aさんは裁縫のプロであり、裁縫の学校の教員もしていたため、ものすごく器用でした。
そして何よりほめ上手です。
「あなたの折り紙上手ね。手先がいいわ。すてきなものができるわよ」
と褒めてくださいます。
きっと、素晴らしい教員だったのではないかと思いました。
Aさんは徐々に入院生活にも慣れ、始めの暴れていた頃が嘘のように落ち着きました。
そして、私の作った折り紙を大事に、袋にいれてとってくださっています。

徘徊には目的がある

認知症高齢者がうろうろ歩いている姿を徘徊と呼んでいます。
しかし、ほとんどの認知症高齢者は目的をもって歩いています。
その目的は現実的なことではないかもしれませんが、これまでの長い人生や価値観、考え方がその目的を生み出しているのです。
ですので、その行動を制限することでは決して良い方向には行きません。
何を目的に歩いているのか、私はあなたの事を知りたい、という姿勢をもって関わると認知症高齢者の方は様々な思いを話してくれます。
その中には私達の心を洗い流して癒しをあたえてくれるくれるような魔法の言葉もあるものです。

[参考記事]
「亡き妻を探すために徘徊しているアルツハイマー型認知症の男性」

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