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認知症による見当識障害が早期に進行していった事例

 

 花江さん(仮名:76歳)は、8年前にご主人を病気で亡くされ、分譲マンションにてお一人暮らしです。娘さんがお二人おり、長女は花江さんと同じ市内に住み、薬剤師として働いています。キーパーソンである次女は独身で、花江さん宅から車で高速道路を利用して1時間半位の市外に住んでいて、平日は医療従事者として勤務されています。

 次女は週末はほぼ毎週花江さん宅を訪れ1、2泊し、花江さんの食料品や日用品をインターネットで発注し、足りない物を買い足したり、時には花江さんをドライブへ連れていってくれます。花江さんも次女が来るのを毎週心待ちにしています。

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花江さんの症状

 花江さん自身は糖尿病患者でありインシュリン自己注射をされております。また、瞼が下垂するという病気や自律神経失調症によりめまいが起こりやすい状態にあり、定期的に総合病院の内科・眼科を受診されてります。

 加えて長年、腰椎すべり症に悩まされ、これまでにも4度ほど手術を繰り返されておりますが、一進一退の状態であり、現在も腰痛を抱えております。ご主人の看病もあってか、ご主人を亡くされた辺りから更に腰痛が酷くなり、掃除がままならなくなってしまいました。そのことでご家族が役所に相談し介護認定を受けた結果、要支援1となり、週2回生活援助サービスを受ける事となりました。

訪問時のご様子

 オートロックのインターホンで訪問を知らせると解錠して下さり、エレベーターでお住まいのある階に到着する頃には玄関扉を開けて待っていて下さいます。そして笑顔で「今日もよろしくお願いします。」と毎回言って下さいます。

 ヘルパーは1時間の中で、仏間、寝室、居間の掃除機かけと浴室とトイレ掃除を行います。その間、花江さんはラジオを聴いたり、読書がお好きなので次女の方が図書館から借りて来てくる本をいつも読んでいます。

 サービス終了時には「ありがとうございました。」と見送って下さいます。訪問の都度、腰の状態をお尋ねしてみるのですが、「相変わらず痛みはあるの。この痛みはとれないわ。」というお答えが多かったです。

花江さんの思い

 花江さんは、ご自身の腰痛を治さないと将来子供たちに迷惑をかけると考えていました。その為、治る見込みを期待し、4度もの手術を受け、少しでも快方に向かう事を望まれていました。

 しかし、現実は厳しく、術後もほとんど痛みの改善は無く、加齢も手伝って、かえって悪化しているようにも見受けられました。腰痛が治らないという事は「非常に重大な悩み」となっていたのかもしれません。

失われる見当識

 その日は突然やってきました。いつものように訪問し、オートロックのインターホンを押すと返答がありましたが、暫く解錠になりませんでした。次にエレベーターで住居へ向かうといつもなら玄関扉を開けて待っていて下さるのに閉まっておりました。

 暫くすると、扉は開きましたが、「薬でパニックってしまって・・」と申し訳なさそうに話されました。朝の薬はどれを服薬したらいいのかが分からなくなったとの事でした。それまでは処方された多種類の薬をご自分で朝、昼、夕、寝る前と服薬できていました。

 「私でよければお薬セットしていきましょうか?」と提案しましたが、「大丈夫出来ます。」との事でしたので、「今日は季節も変わり目なので自律神経が不安定なのかもしれませんね。」と声かけし、戻りました。

 その週の2度目の訪問時(三日後)には、すっかりオートロックを解錠することが出来なくなっておりました。この時はたまたま同じマンションの住人の方と一緒になり中に入る事が出来ましたが、やはり住居の玄関扉は閉まっており、その日も「薬でパニックってしまって。」と前回と同じことを話していました。この辺りから一週間に2回訪問する度にどんどん物忘れが進行していってしまったのです。

 その後、日付が分からない、時間が分からないという見当識障害の疑いが強くなりました。私が訪問する度、今日は何曜日なのか、今は何時なのか、といつも不安を隠せない様子でしたので、その度にお家にある電波時計で日付と曜日、時間が確認出来る事を伝えました。

 私が訪問中にサービスに入りながら花江さんの様子を窺ってみると、椅子に座っていたかと思うと何度も薬ポケットの確認の為に立ち歩き、そのせいで腰の痛みが増幅することをお伝えしてもすぐに忘れてしまい、腰痛をいつも訴えていました。

 ある日の朝の訪問時、薬のポケットを確認すると朝と昼の分の2回分が服薬されておりました。食事をしたかどうかも分からないため、薬の服薬にも困難をきたすようになり、負のスパイラルに陥っていきました。

 後に花江さんの口から伺った事ですが、1か月程前に次女と一緒に物忘れ外来を受診したとのことです。その時の受診結果は、脳に少し萎縮が見られるが日常生活には支障はないとの事でした。きっとご本人とご家族に物忘れに関して不安に思った事があったのでしょう。この物忘れ外来受診は花江さんの心配事を更に増幅させた可能性があります。

 また同じくしてこの頃、私の訪問介護事業所の体制変更で、外部訪問サービスを廃止する事となりました。それを花江さんに申し伝えると、「どうなるのかしら」と酷く心配されており、心配事がもう一つ増えてしまいました。

その後の対応

 オートロックの解錠不能となった日から、花江さんの口から「どうしよう、私、認知症になったみたい。全然わからなくなって来たわ。」と聞く日が増えて行きました。そんな花江さんの変化に合わせて、次女は毎日片道1時間半位をかけて花江さんの元から通勤し始めました。

 薬は薬剤師の長女が朝・昼・夕・就寝薬を小袋に入れ、準備してくれた物を、次女の方が一週間分のポケットにセットしていました。ご家族の方の生活も一変してしまいました。

 私も直ぐにケアマネージャーへ連絡をとりました。サービス中に特に変わったご様子はありませんでしたが、おひとりになることを凄く不安に思われていることがひしひしと感じられたからです。きっとヘルパーがいる時間帯は、今がいつなのかすぐに聞けるので安心できるのでしょう。

 後日、ケアマネージャーからの報告で、この件を機に花江さんは物忘れで受診した病院へ検査入院し、見当識障害が強いことなどからして認知症と診断を受けました。環境が変わったためか、入院中にも認知症が進行し、今は長女宅近くの施設に入所しているとの事でした。今思えば、重なる心配事が、心優しい花江さんの心に何か変化を起こしてしまったのかもしれません。

[参考記事]
「認知症による徘徊と見当識障害のある女性に対する対応」

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