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老人施設に入居している高齢者のプライバシーや基本的人権

 

私が勤めている認知症グループホーム(老人施設)での介護を通して、高齢利用者の「プライバシー」や「権利」はどのくらい守られているのかを考えてみました。

プライバシーの意味は以下の通りですが、権利とは憲法で保障されている基本的人権も含みます。

プライバシー、プライヴァシー(英: privacy)は、私生活上の事柄をみだりに公開されない法的な保障と権利である

wikipediaより引用

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私が勤めている認知症グループホームはこんな施設です

〇ビルの3フロアに、利用者さん9人1ユニットを2つ有しています。運営は社会福祉法人によるもので、立ち上げの際にかなり計画を練り上げたと思われ、必要な設備はほとんど整っています。

利用者さんの居室には、トイレとベッドがありますが、その他のものはご家族が用意してくださいます。使い慣れた家具や持ち物、そしてテレビを持ち込んでいる方は多いです。窓は危険防止のため細くしか開きません。

〇また、近所のクリニックと密な連携をとっていて、利用者さんの主治医になっていただいています。周辺にあるいくつかの病院とも連携をとって、救急搬送の場合には、なるべくその病院に受けてもらうようにしています。

〇昼間は、利用者さんには居間で過ごしていただいています。1日2回、体操をしますし、レクリエーションもします。人数が少ないので、トランプで遊んだりします。

【守られているプライバシー・権利】

①私が勤める施設では報道などで見られる虐待は断じてありません。
また、老いていくことが暗く、汚いものであるともスタッフは考えていません。間違いなく、利用者さんを大事に思っています。昼食・夕食のメニューを利用者さんとスタッフが一緒に考えていますし、料理も手伝ってもらうこともあります。

お客さんですので当たり前な対応と言えばそうですが、施設の中には「自分の親だったらこんな酷い対応しないでしょう」というレベルの介護を行っているところもあると聞きます。

基本的人権には「身体の自由」という項目がありますので、これだけは絶対に守らないといけません。ですので、私の個人的な考えですが、暴れないように、オムツに手を入れないようになどの理由で拘束は嫌いです。これでは「身体の自由」は守られません。家族の同意を得れば拘束具を付けることは可能ですが、私は非常に嫌です。

②居室から居間に来るときには、ほとんどの女性利用者さんはお化粧をしています。もちろん、それらの化粧品は、全部ご自分で選んだもので、「選ぶ権利」は守られています(洋服に関しては次の章で話しますが、一部選ぶ権利が守られていません)。

フリータイムに、スタッフをまじえて家族の話などが出てくることがありますが、そういう話には参加したくない方は席を外されますので、プライバシーは守られます。

【守られていないプライバシー・権利】

①入居してから症状が進み、ほぼ全介助になってしまった利用者さんがいます。この方に関しては、もうプライバシー以前の問題で、彼女を介助する様子を見る他の利用者さんが、「私もああなっちゃうのかしら」と不安な視線を投げかけています。これはグループホームでの少人数ケアの弱い部分だと思います。

9人でスタートして、ちょっとずつメンバーチェンジをしながら運営をしていますが、そのお一人が、例えば自分と同じ病気の人がどんどん変容していってしまうのを見ている、これはかなり酷なことだと思います。これに関しては変容していく本人のプライバシーは守れません。

②一番、「選ぶ権利」に問題があるのは、服選びです(特に入浴後)。着たい服を着るのは利用者さんの自由だと筆者は考えるのですが、「時間がもったいないからあなたが適当に選んでいいよ」と先輩のスタッフに言われて、「それでいいのかな」と最初は疑問に思いました。

いつもちゃんとメイクをしてくる利用者さんたちですから、着たい服もあるでしょう。しかも、居室のタンスにしまってあるものからスタッフが適当に持っていくことが当たり前になっていることに抵抗を感じました。

もちろん、身体的な理由でそれが出来ないならスタッフがやるのは当然ですが、それが出来る入居者には服を選んでもらってもいいのかなと感じます。

③また、入浴は個浴で、プライバシーは保たれていることになっていますが、実際は安全面に配慮をしなければいけませんので難しいです。お手伝いが必要な方は、呼んでいただければその通りするので、特に問題は起きません。

問題なのは、すべて自力で入浴でき、本人もそれを望む利用者さんに万一の事故をないよう見守るために「のぞき」をしなければいけないことです。そのことで、「なぜのぞくの?」と詰め寄られ、利用者さんとの関係がうまくいかなくなったことが何度もあります。

④居室の汚物入れの紙パンツを片づけた時にも、勝手にやらないでほしいと言われました。プライバシーを侵されたくないとのことですが、そのままにしておくわけにはいかないのが現実です。

⑤最近、保育園でのおむつ替えに関して、「同性でやってほしい」という要望が出ているようですが、同じことが私が勤めている介護の現場でもありました。人員不足もあり、出来る時と出来ない時があるのが現実です。

⑥ずいぶん前のことになりますが、参議院選挙がありました。その時、私が勤めている施設の入居者のご家族は「投票の用紙は〇〇(入居者)には送られてこなかった」と言っていましたが、この当時は旧公職選挙法により後見人がついた人は投票できない規定になっていました(今はこの規定は撤廃)。

新聞をしっかり読んでいらっしゃる方は「投票に行けるなら行きたいわ」とはっきりおっしゃっていますので、こういう方の権利(参政権)は我々が何とかしてあげないといけないと思っています。

「認知症だから」という理由だけで、基本的人権の一つである参政権を消滅させてしまっていいのでしょうか。もちろん、意志の表示が出来ないレベルの認知症の人が付添い人の言うことに従って投票してしまうリスクもありますので、あくまで認知症のレベルが低い方に対してです。

まとめ

グループホームの利用者さんは籠の鳥です。玄関とエレベータ、2つの鍵をあけないと、外には出ていけません。ご家族あるいは保佐人が来ないと自由な外出はできません。スタッフと一緒に行く食事や日用品の買い出しが、利用者さんたちの数少ない外出の楽しみになっています。

鍵は徘徊防止のためなので、やむをえないとは思うのですが、利用者さんとしてはストレスになっているようで、利用者さんの中には抑うつと不眠を訴えている人もいます。

また、昼は居間にいることが原則になっている私が勤める施設のあり方が、もう少し柔軟であってほしいと考えています。居室に戻り、そこで転倒などがあった時のことを考えると、「やはり居間で」となってしまう施設側の懸念はよくよく分かるのですが、昼の時間帯でも、自室で好きなDVDを鑑賞したりする「ひとりの時間」をもつ権利があってもいいのではないかと思ってしまうこのごろです。

[参考記事]
「認知症の介護施設(グループホーム)ってどれくらいの費用がかかるの?」

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