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介護職員が認知症の人と関わる時の「心構え」

 

 私は介護施設で働いています。認知症の方々も多数入居しており、介護職員一同どのように支援をすればいいか日々考えながら関わらせていただいております。

 認知症の症状は、一人ひとり違います。どの人にも安心して過ごしていただきたいと思っていますが、実際には難しい問題もたくさんあります。私が介護施設で経験した事例を挙げて、私が介護職員としてどのように認知症の人と関わっているのかを、心構えも踏まえて説明していきます。

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1人で出かけようとする音楽好きのHさんー70代女性

 70代の女性Hさんは、一人で外へ出ていこうとします。私の働いている介護施設には一人で出かけられる方も多く住まわれており、一人で出かけるのは危ない人については玄関ホールの守衛さんに連絡をしてあります。Hさんはその中の一人で、出かけてしまっては様々な危険があるので、Hさんが玄関ホールへ向かった時には守衛さんから連絡が入るようになっています。

 部屋へお連れしてもまた玄関へ行かれるので、事務所へお連れして、試しに昔の音楽の動画をパソコンで見せてみました。なぜなら、入居前の家族へのヒアリングで、Hさんが音楽が好きなことが分かっていたからです。音楽好きなHさんはそれがとても楽しい時間のようで、頻繁に事務所へ遊びに来るようになりました。

 その後、Hさんが好きな歌手のCDをたまたま私は持っていたので、Hさんの部屋でかけてみることにしました。HさんはCDを聞きながら一緒に歌っておられ、部屋でCDを聞いて過ごすことも楽しみの時間になりました。

 このように入居者の趣味などの情報を知ることは認知症による症状が強く出た時には役に立つことがあります。私の勤めている介護施設ではこのようなデータがパソコンに保存されていて、介護職員であれば誰でも見られるようになっています。

 情報がないのに手あたり次第介護をしては成功の確率が減ります。「その人にあった介護をするという心構えをいつも忘れないように」と私が勤める介護施設の所長はいつも言っています。

失便、失禁の対応。トイレの声掛けと誘導

 また、Hさんは現在、失便、失禁がとても多くなりました。失便、失禁があるとお尻が濡れて気持ち悪いだろうし、タイミングを見て、トイレ誘導をしています。

 しかし、Hさんは便秘で、トイレでなかなか便が出ません。診ていただいている病院の先生曰く、「便意がないだけではなく、お腹から便を押し出す筋肉が弱くて、自力では難しい」とのことです。

 先生からは便秘薬の処方があり、出ない日が続くと使用することになります。便秘薬を使うと便が大量に出るのですが、自分の力で便を出す力がさらに弱まってはいけないので、トイレ誘導をしてなるべく便秘薬を使わなくて済むように努力しています。

 ここでも「既存の身体能力を損ねないように」という心構えは忘れないようにしています。施設によっては安易に便秘薬を使用したり、オムツが必要ない時期なのに介護職員の都合で使用してしまうなんてことも起きています。

職員に暴力をふるうTさんー90代女性

 Tさん(90代女性)は耳が遠い方で、立位が取れないので車いすを利用しています。車いすからベッドへの移乗や、おむつ交換がとても嫌で、介護職員に暴力を振るっていきます。お声かけはするのですが、声が聞こえないので何をされるのか不安があるようです。

 ある介護職員は夜勤中に眼鏡を取られ壊されたり、他にも腕をつねられ青あざができたり、顔を目がけてげんこつが飛んでくることもあります。言葉でも「バカ!」と言われたりするので少し寂しい気持ちになることもあります。

 介護職員とて人間ですから、イライラする気持ちが沸いてくることも事実です。しかし、認知症が原因で暴力が起こっていることを考えれば本人には罪はないと私は思っています。この心構えが腹に落ちて介護をしているか、していないかでその後の対応に大きな差が出てきます。

 私の対策としては、耳が全く聞こえないわけではないので耳のそばで大きな声で「ベッドに移るよ」「おむつを交換するよ」など話しながら手で移動するような動きをしたり、手におむつをもって見せたりして安心していただけるよう心かげています。いつもうまく通じるわけではないのですが、ちゃんと通じた時は攻撃せず待っていてくれます。

食事介助の拒否

 最近Tさんは、自分でごはんをあまり食べてくれないので食事介助をしています。食事介助をされるのが嫌なようで介護職員の持っているスプーンを取り上げて殴りかかってきます。そんな時は、斜め後ろから見守って、ご本人に食べていただくようにしています。

 ですが、たいていは取り上げたスプーンをそのまま手に持って食べてくれないので、他のスプーンで食事介助を再開します。介護職員の顔が見えないと怒らないことが分かったので、真横に座らず少し後ろにずれて食事介助をするようにしています。

介護職員としての心構え

 私は祖母が介護施設でとてもひどい扱いを受けていたのを見て悲しくなり、「この介護職員たちはどのような教育を受けて、どんな心構えで介護の仕事をしているんだ」と思ったことがあります。そういう経緯があり、介護の資格を取り、今も介護の仕事をしているのです。

 実際に授業を受けると、認知症の人の人権もびっちり教えてもらい、介護への偏見が無くなりました。認知症の方々と関わる上で一番大事な心構えは、「その人に合った方法を探し出すこと」だと感じています。

 一人ひとり認知症の症状の現れ方に差があることはもちろん、これまでの生活や性格なども配慮して接しないといけないと思っています。認知症の方と接することは根気がいりますが、気長に構えて接する必要があります。

[参考記事]
「認知症による妄想と暴力についての対応について」

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