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前頭側頭型認知症による万引き(盗み)への対応。毎日同じ時間に万引き

 

 特別養護老人ホーム入所するOさん65歳、女性。Oさんの奇行は独居で在宅生活を送っていた3年前に出始めました。毎日、同じ時間に近所のコンビニへ通う。そして、ちくわやチョコレートなど、いつも同じものを万引。悪びれる様子もなく万引きをするOさん、異変を感じたコンビニ店員は警察へ通報。

 隣町に暮らす長女は警察からの連絡に驚き、戸惑いました。ある時は園芸店で鉢植えの花の枝を折り、またある時は果物屋のみかんを握りつぶして立ち去りました。雨の日も、台風の日ですら出かけるOさんの姿はその地域で有名になりました。

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前頭側頭型認知症との診断

 病院で受診した結果、前頭側頭型認知症であることが分かりました。この認知症には「抑制のない行動に走る(社会的な常識が欠如する)」「回りからは人が変わったように見える」という特徴があります。万引きに加え、怒りっぽく、人をバカにしたような言動も多くなり、人格は変わっていきました。長女は悲しみにくれました。

 担当ケアマネージャーと相談し、介護保険のサービスを利用しながら独居生活を続けることに。月の半分はショートステイ、その他の平日は送り出しヘルパーを利用しながらデイサービスへ通っています。

 日々の万引きについては、コンビニや地域住民へ病気の説明を行い、理解を得ました。万引き行為があると、その都度お店からヘルパーへ連絡が入る態勢を取り、まとめて代金を支払いました。

家族の限界

 人格が壊れていく前頭側頭型認知症。本人に記憶障害は無く、話し方もいたって普通。ただ人間的な温かさの低下や喪失が見られます。長女は母親が認知症だと分かっていても壊れていく姿を見ることは辛かったと言います。他人の目が気になり、病気を理解してもらえない葛藤の中で長女は鬱病に…ついにダウンしてしまいました。そして特別養護老人ホームに入所を決めました。

施設での生活パターンを知ること

 施設に入ってからもOさんの奇行は続きました。毎日同じ行動をすることは変わらず、決まった時間に決まったコースを歩き、他の入所者の部屋に入り、持ち物を自分の鞄に入れる。食事の際は「汚い食べ方ね。気持ち悪い」などと、他の入所者の食べ方を大きな声で批判。

 職員のストレスもピークに達し、限界寸前。職員それぞれが違う対応をしていては、Oさんの人の物を盗む行為も収まらないし、職員がOさんのことを鬱陶しいといった態度を取ると、他の利用者や家族も同じような空気が伝わってしまうからです。

 そこでユニット職員全員で会議を開き、対応について話し合いました。

 そして決まったことは、
〇行動を制止することはしない。
→行動を制止することで不穏になることがあったからです。

〇日々のルーティンを観察し、その行動を毎日してもうらう。
→前頭側頭型認知症には同じ行動を繰り返す性質があり、これを利用するためです。

 家族へOさんが鞄に入れる物と同じものを購入してもらい、利用者の部屋以外の場所にそれらを置きました。毎日同じ時間に職員が誘導し、新たな生活パターンの日常化を意図的に作りました。2週間もすると同じ時間に同じパターンで行動するようになり、盗る行為も家族が買ってきた物に限定されるようになりました。

 そして、食事の時には他の入居者のことを罵倒しないように、職員と一緒の食卓で食べるようにしました。

 また、なかなか理解は得られませんが、入所者にはOさんの前頭側頭型認知症について丁寧に説明しました。同時に家族にも頭側頭型認知症の特徴について説明し、対応法も伝えました。

チームワークの大切さ

 施設で介護負担の多い利用者を迎い入れるにあたり、ユニット職員のチームワークは大切です。職員同士の意見交換は非常に大事で、結論は出なくても、職員それぞれがどのようなことを考えて働いているかをお互いに知ることができます。良いチームは良い介護ができるのです。

 今現在もOさんの頭側頭型認知症は進行しており、新たな問題は日々出ています。

[参考記事]
「前頭側頭型認知症ってどんな症状があるの?」

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