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認知症による物盗られ妄想の対応は自分で見付けてもらうことが大事

 

 Sさん(80代女性)は、物忘れが酷いということで受診され、画像診断の結果、アルツハイマー型認知症と診断されました。同じことを何度も繰り返し口にされる、ものを置いた場所、約束の日時を忘れるなど、加齢による「物忘れ」とあまり変わらない症状でした。

 ただ、ご自分にそういう症状があることに、かなり不安や恥ずかしさを感じられている様子で、物忘れ以外のことに関しても落ち込みやすくなる「うつ症状」が出始めていました。

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Sさんの人相が変わる

 訪問介護でご支援し始めた頃は、私のことを気に入っていただけたのかなと感じておりましたが、ある日、人相や口ぶりまで変わって、不機嫌な態度を取るようになりました。「なにしにきた!」「騙そうとしているんだろう!」「触るな!」「帰ってくれ!」などの暴言もありました。それまでの、大人しく、優しい雰囲気とのギャップに戸惑うほどでした。

 こういう場合は、こちらも感情的になっては上手くいきませんので、あくまで冷静に「すぐ、終わりますからね」程度の声かけにとどめ、気に触らない程度の最低限のご支援にとどめましたが、「こんなもの食えるか!」とお食事も食べてくれません。そのまま、口すら聞いてくれなくなりました。

 こういうときに、近親者や友人などは、大抵それまでとのギャップに戸惑い、暴言に傷つき、ご本人から離れていってしまいます。しかし、これは「病気がさせていること」なのだと、ぜひご理解いただきたいと思います。

 暴言を吐かれて平気でいられる人はいませんので難しいとは思いますが、認知症の本人も不安の絶頂にいるのです。また、人が離れてしまうことで、認知症の症状も進んでしまいます。

不機嫌な態度への対応

 Sさんが不機嫌な態度を取るまで何かきっかけがあったと感じたので「なにかご心配事があるのですか?」と、比較的落ち着いている時を見計らってお尋ねしました。「うちの米を勝手に使って…」とおっしゃいます。「Sさんの召し上がる分しか使っていませんよ」と誠実にお答えしました。

以下、Sさんとの会話です。
Sさん:「じゃあ、家のものがどんどんなくなるのはどういうことか!」

私:「大丈夫ですよ。Sさんの召し上がる分は十分あります。他に盗る人はいませんよ」

Sさん:「白々しい…」

 ここで、わたしは、「もの盗られ妄想」が出始めたと考えましたので、「他に何かなくなったものがあるのですか?」と、お尋ねしました。すると「家に入れたのをいいことに、通帳を盗ったのは、あんただろう」とおっしゃいました。

 認知症が進むと、ご自分でどこにしまったか忘れてしまうだけではなく、見つからないのはそれを誰かに盗られたと考えてしまう「物盗られ妄想」という症状が起こることがあります。現金、通帳、大切な指輪などなど、いつもある場所に置いてあっても、ご自分がみつけられないと、「盗られた」という思考になり、一気に情緒不安定になってしまいます。

 盗ってない方は、とんでもない言いがかりをつけられて、腹を立ててしまいがちですが、これも「病気がさせていること」です。私はこの時「一緒に探してみましょう。Sさん、その辺探してください。わたしは、別の場所を探します」とお声掛けをして、一緒に探すことにしました。

 重要なのは見つけ方です。大抵、いつも置いてある場所に置いてあります。もしくは、不安にかられて、「より安全」と考えるとんでもない場所(冷蔵庫、仏壇など)に、ご本人がしまっている場合もあります。Sさんの場合も仏壇の引き出しの中に入っていました。

 この時、「ご本人に見つけていただく」のが、ものすごく大切です。「ここにあるじゃないの!」と他の人が見つけてしまうと、やっぱり盗ったのはお前だ! となりかねません。私が先に見つけていましたが、「Sさん仏壇はどうでしょうか」と誘導をしてご自分で見つけていただくことができました。

 この件がきっかけでSさんの不機嫌な態度が全て無くなった訳ではありませんが、これまでと比べて私に対する当たり方が緩くなったように感じました。

[参考記事]
「認知症による物盗られ妄想には原因があった(実例)」

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