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認知症による夜間せん妄(幻覚や暴力)がある方への対応

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 これから書くことは私が特別養護老人ホームで夜勤業務をしていた時にあった出来事です。ちょうど夜勤入りしたばかりの時間帯に、緊急のショートスティの受け入れをすることになったとケアマネージャーから連絡が入りました。通常はめったにこういう事はありませんが、虐待など緊急性がある場合は一時措置をとることがあります。

 今回ショートスティを利用されたNさん(男性)は、妻と二人暮らしをしていました。一年程前から軽い物忘れが出始め、徐々に症状が悪化し、今自分がいる場所が分からなくなる「見当識障害」や、服を自分で着ることが難しい「失行」といった認知症の症状も出始めました。

妻に対する暴力

 もともと亭主関白で威厳のある夫であり父でもあったNさん。妻や娘に自分の世話をしてもらう、ということが受け入れられないようでした。また、自分が分からなくなってしまうことに対する恐怖や不安が苛立ちとなり、大きなストレスから一番身近な妻に当たるようになりました。

 また、夜になると特に認知症状がひどくなり、幻覚が見えるなどの夜間せん妄が出始めました。幻覚が見えると一晩中、家の中を徘徊したり、妻の介護を拒否して手をあげてしまうこともありましたが、Nさんの妻は誰にも言わず耐えていました。

 ある時、Nさんの娘が家に立ち寄った時のことです。痩せ細った母の顔や身体に沢山の痣(あざ)があることに気付きました。奥さんはNさんに暴力を振るわれていたのです。これはただ事ではないと察知し、すぐに役所に相談し職員が訪問することになりました。荒れた部屋やNさんの様子、奥さんの痣を見て、命の危険性があり、緊急な対応の必要性があると判断した職員は、娘を交えて妻と話し合いの場を持ち、夫のショートスティの利用を相談しました。

 初めは「まだ大丈夫。お父さんの面倒は妻である自分が見ないと。人の世話にはなれない。」と断っていた妻でしたが、娘の説得もありしぶしぶ承諾し、その日の夕方からショートスティの利用開始までに至りました。

夜間せん妄に対する対応

 施設に到着したNさんは、初めての環境に困惑し「何故こんなところにいるのか、帰る!」と立腹されていました。スタッフがゆっくり現在の状況を説明し、施設を案内します。少し落ち着かれたところで、食事をすすめるとようやく座って召し上がってくれました。

 しかし、他の方々が寝静まり、フロアが暗くなると次第にソワソワし出したNさん。「帰る!ここはどこなんだ!」と全ての部屋のドアを開けて大きな声で誰もいない方向にむかって話しかけて回ります。

 夜間せん妄が出ると、無理に止めようとすると逆効果です。制止するスタッフの手を振り払い、「なんだお前は!」とスタッフに暴力を振るおうとされます。そこで、他の入居者様に迷惑がかからないようにNさんをフロアへお連れし、帰ろうと徘徊するNさんを後ろからそっと見守ります。30分程経ち、少し歩き疲れたタイミングをみて、偶然を装いNさんに話しかけます。

「Nさんこんばんは、どうされたんですか」

 すると、Nさんは顔をしかめて「あんた、誰だ!あんたもここも知らん。」といいます。そこで、Nさんの事を知っている人物のほうが安心するのではと考え「娘さんの友達の〇〇です。いつも娘さんにはお世話になっています。私はここで働いているんですよ。」と娘の名前を出しました。一人娘をとても可愛がられていたNさんは、娘の名前が出ると途端に表情を緩め「ああそうだったのか。」と徘徊していた足をとめてしっかり私の方を見てくれました。「今日は私は夜の当番なんです。もう遅いですし、お疲れでしょう。部屋も空いていますので泊まって行ってください。家にもちゃんと連絡するので心配ないですよ。」と声をかけると、自分の事を知っている事に安心したのか、すんなり応じてくれました。そしてその日はぐっすり朝まで休まれました。

 よく眠れたことで翌朝は少しすっきりした表情のNさん。居場所が分からず困惑することも時々ありますが、ゆっくり理解されるまでその都度説明すると落ち着かれます。そしてこれを繰り返すことで夜間せん妄による暴力も無くなり、だんだん施設での生活に慣れていきました。

 今回の出来事をきっかけにNさんの娘の協力を得られるようになり、奥さんの負担も以前より軽減しました。また、定期的にデイサービスやショートスティを利用し始めたNさん。日中活動することで徐々に夜間せん妄による暴力は落ち着き、今では夜はぐっすり眠られるようになりました。

[参考記事]
「認知症が原因で起こる夜間せん妄とは何か。どのような対応をすべきか」

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