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[認知症介護]偽薬を使った対応で周辺症状が軽減された実例

 

 私の勤務している介護療養型医療施設ではユニットケアを実践しており、病床数42、4ユニット10~11名で構成されています。そこで過ごされているTさんは現在92歳、女性の方です。基礎疾患として、脳血管性認知症・高血圧症・脳梗塞があります。

 最初の頃は自宅で一人住まいでしたが、脳梗塞にて倒れているところをたまたまきていた家族に発見され、病院に入院。脳梗塞によるマヒは出現しませんでしたが、Tさんの子供は全員四国に在住で近くに頼れる人もおらず、認知力も低下され在宅生活が難しいとの判断で入所の運びになりました。

 要介護度は2で骨折する前はなんとか自分で歩けましたが、現在は移動に車椅子を使用しています。最初入所されてきた頃にはとにかく頭痛の訴えが激しく、頓服の薬を内服させるも、内服した事を忘れ職員に要求する有様でした。

 頭が痛いからお風呂に入らない・ご飯を食べたくない・行事に参加したくないと、とにかく頭痛になんでも結びつけ自分の部屋に閉じこもりがちになりました。

 壁越しに声を聞いてみると「ここの職員は薬をくれない。こんなにつらいのに恨めしい」と独り言をブツブツ言っていました。夜になりますと、ナースコールを鳴らし「頭が痛くて眠れない、はやく薬をくれ」と何回も訴えられ、夜間の睡眠が十分に取れず、昼夜逆転現象が発生していました。

 何度と無くナースコールを鳴らすものですから、私たちの夜勤業務に支障をきたすようになりました。加え、薬を飲ませてもらっていないと時折くる家族や他利用者に話していたので、家族に不信感をもたれるようになりました。と言いますのも、家族は本人の物忘れがひどいだけで、認知症のわけが無いと信じており、本人に関する病識がまったくありませんでした。

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偽薬によるプラシーボ効果

 このままではいけないと、ユニット内で医師・薬剤師・看護師などを交えてのカンファレンスを開催、家族に本人の病気に関する事とそれに準ずる行動説明及び偽薬を使用する許可を得、プラシーボ効果を期待しました。プラシーボ効果とは、乳糖や砂糖、ラムネの粒などを薬と称し、患者に飲ませ安心させることです。

 まず、乳糖を薬包紙にて包み、赤い袋に入れパッケージに頭痛薬と書いておきます。次に医師に協力してもらい「これはとても良く薬です。但し劇薬なので赤い袋に入れておきますね」と本人に説明、家族にはこのような偽薬を使用しますとの了承を得ました。また、本人の現状を医師より説明され、家族も多少理解された様子でした。

 早速頭痛を訴えて来られたので、乳糖を内服させると「こりゃ良く効く薬だね!全然頭が痛くないよ」と大喜び!初期の頃は飲ませる間隔が2~3時間だったのが、5時間、6時間と長くなり、ここ最近ではまったく飲まなくても済むようになりました。

 本人は「この薬を飲む様になってから、体がすごく元気になったよ!」と言い、行事やレクに積極的に参加されるようになり、夜間もぐっすり休まれるようになりました。

 家族には現状を報告し、本人の状態を逐一連絡することで信頼の回復へと繋ぐ事が出来ました。残念ながら、居室で転倒してしまい左大腿骨頸部骨折により退所し、病院に入院されました。

 今回のケースは偽薬を使用することで、本人の心身の安定が図れ施設生活を穏やかに過ごせるようになった事例です。良くも悪くも薬は使いよう、本人が効果があると信じればそれがどんな物でも薬になると、心と体の関係性を再確認させられました。

[参考記事]
「脳血管性認知症ってどんな症状があるの?」

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