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女性介護職員に抱きつく認知症の入所者に対する対応

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 認知症のYさん(77歳男性)は老人介護施設に入所しています。Yさんの症状は、特に時間認識と人物認識が困難なことです。私はYさんの身の回り全般のお世話をして4年目になります。1年目はお部屋に伺う毎に、他の職員同様「お宅は誰ですか?」と聞かれました。Yさんは、施設に入る前の認知症の症状が出始めた頃から、ご家族に「知らない人を絶対に家に上げてはいけない」と言われ続けていた為、警戒心がどんどん強くなってきています。

警戒心を解くには赤いリボン?

 朝のお薬の時間は決まっています。最初の頃は、毎朝自己紹介から初めて、私の子供たちの写真を見せたりしましたが、これでは時間が掛かりすぎます。Yさんの警戒心を解く時間を短くするため、私はYさんのお部屋の前に来ると、ポケットから小さな赤い花のコサージュが付いた髪留めを付けるようにしました。視力は低下しても、赤い色は認識しやすいようです。他の色も試したのですが、Yさんには赤い色の効果がありました。
「Yさん、お薬の時間です」毎朝同じセリフを言います。
「あっ、赤い花の人。クスリの時間」Yさんはそのように覚えてくれました。

 毎回上手くいくとは限りませんが、7割以上の確率で成功します。私がYさんのお世話ができない日は、他の女性介護職員が赤い髪留めをしてYさんの部屋に行っています。同じセリフを言えば、Yさんはすんなりとお薬を飲んでくれます。

 赤い髪留めの効果が無い日は「私も薬を飲みます。一緒に飲みましょう」と言うと、Yさんは「あんたも飲むんなら」と言って口に入れてくれます。Yさんからしてみれば、見知らぬ人が差し出す薬なんて、恐ろしくて仕方ないことでしょう。私の薬はラムネです。

卵焼きとベーコンへのこだわり

 お薬が終わると、Yさんは必ず「卵焼きとベーコンが食べたい」と切羽詰まって訴えます。食へのこだわりは年々強くなっていますので、介護職員の返事次第で、Yさんは暴力性を表します。ベッド横の引き出しの上にあるもの、全てを投げて来ます。まだまだ体力のあるYさんが、力いっぱい投げた本が足に当たって青アザになった職員もいます。

 今のところ、最も効果のある返事は「卵焼きとベーコンは、今日のメニューに入っているか聞いてきますね」とにっこりして言って部屋を出ることです。Yさんの視力はよくありませんが、笑うと口角が上がり、声に温かみが出ます。目が良くない患者さんは、聴覚が研ぎ澄まされるケースが多いので、声のトーン(笑顔)はとても大事だと思います。

 介護職員がいなくなると、Yさんはもう卵焼きとベーコンのことは忘れてしまいます。卵焼きとベーコンがニューに出る日は稀ですが、どちらかが目の前に配膳された時のYさんの笑顔は本当に素敵で、こちらもまた笑顔になります。

性的な行動に対する対応

 最近のYさんには、性的羞恥心の低下も見られます。後ろ向きで家事をする女性を、亡くなった奥様と勘違いしてしまいます。症状が出始めた頃は「おい、みちよ(仮名)、お茶くれ」など、用事を言いつけていましたが、ここのところ、後ろから抱き付いてキスしようとします。Yさんの警戒心も課題でしたが、抱き付き対策は難問です。

 Yさんの認知症を一番最初に気が付いたのは、同居する娘さんのK子さんでした。いつもと変わらない1日の終わり、家族全員が夕食を終え、K子さんがキッチンで洗い物を始めたところ、Yさんが「おい、みちよ」とK子さんに後ろから声を掛けて、抱き付いてきたからだそうです。Yさんは当時71歳でしたが、奥様は6年前に亡くなっていました。

 介護施設に入居して以降、Yさんが女性介護職員を亡くなった奥様と勘違いすることは時にはありましたが、視力の低下に伴い、勘違いの頻度が増し、最近ではYさんの身の回りをお世話する女性介護職員、ほぼ全員に対して性的な行動が出始めました。夜の見回りで、Yさんはベッドの中でパジャマのズボンを脱いで見せて、女性介護職員を驚かせたりもしましたが、排泄誘導の時は何の問題もありません。

 ミーティングで何度も話し合い、意見を交換して、入浴と夜の見回りは可能な限り男性介護職員がお世話をする、女性介護職員は、Yさんの目の前では、出来るだけ後ろ向きで仕事をしないと提案がありました。他の介護職員から「ちょっと難しいのでは?」と疑問が出ましたが、「観客に背中を見せないお芝居の俳優や女優をイメージしてやってみましょう」ということになりました。

 またご家族にお願いして、部屋に奥様の写真を貼ってみたところ、最初は何の関心も無いようでしたが、そのうちに「おい、みちよ」と声を掛け始めたので、写真を拡大して目線の位置にしたところ、Yさんは毎日話しかけています。「今日は卵焼きが出るか」と奥様に聞いているのかもしれません。

まとめ

 Yさんを含め、入居しておられる皆さんの症状が、明日どう変わるかは分かりません。ご家族と一緒に考え、実行したアイデアが失敗すること、または裏目に出ることもあります。介護はきれいごとではない。見返りのあるなしに左右されない寛容と忍耐、そして学ぶ姿勢が必要だと、日々実感しています。あとは笑顔。これは本当に大事だと思います。

[参考記事]
「認知症による性的行為(お尻や胸を触る)を薬で抑えた症例」

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