アルコール性認知症の70代のN様(男性)は、足腰がしっかりしておりジョギング、散歩が大好きです。過去の仕事は建設資材をトラックで現場に配送する業務を行っており、体力も同年齢の方に比べて高い方です。
施設体験の申し込みがあった時点では、一般の健常者ではないかと疑うほどのN様です。デイサービスの契約時にケアマネージャーから、「実はN様は、若い頃からアルコール摂取が多く、それが原因で脳梗塞を発症し、アルコール性認知症と診断を受けています」と詳細な話を聞きました。N様本人の前で「アルコール(酒)」の話しをすると、突然、「大声を上げたり」、「暴れ出す」事があるので注意して欲しいと話がありました。
自宅では奥様と二人住まいですが、日中、奥様はパート勤務で不在となり、N様が一人で勝手に「アルコール(酒)」を飲まなければと心配しながら、週二回、デイサービスの利用を開始しました。
(アルコール性認知症は、アルコールを大量に摂取続けた事により脳に障害が起こる認知症です)
【施設では優等生】
初回の利用から、多くの方と楽しく会話をし、見る限り、70代の健常者の方が一人混じっている状況でした。また、活動的にレクリレーションを楽しみ、体力の向上が見られています。
【体力向上による問題】
日々、体力が向上することで、N様は今までよりも散歩の距離が長くなりました(通常1日、8,000-10,000歩)。散歩の距離を聞くと1日当たりの平均は5-6㎞、時には隣町に住む娘夫婦の自宅まで、往復約10㎞の道のりを散歩してことが判明しました。これを聞いた職員、ケアマネージャーは、一般の人でも歩かない距離だと驚きました。
N様に聞くと、毎日、暇ですることがなく「アルコール(酒)」を飲まないようにする為の活動と話されました。我々は、散歩をすることは体力維持の習慣としては最良ですが、やり過ぎは逆に疲労、事故などリスクを伴うことを説明しました。しかし、N様は、話を聞くだけで日々の散歩を止めることはありませんでした。
【掛かりつけ医への相談】
散歩の距離が度が過ぎる点と認知症の進行具合について、掛かりつけ医に相談をしていただいた結果、記憶障害も発症していることが分かりました。記憶障害では、お昼などに食べたものなどが思い出せなくなっていました。施設においてもレクリレーションなどの話しをすると、忘れている事がありました。
時間が経過しても思い出すこともなく、記憶障害を合併していることが分かりました。記憶障害は改善がたいへん難しく、進行を遅らせるようにすることしか対策はないと、掛かりつけ医から回答をもらいました。
【対策は一人にさせないこと】
アルコール認知症は「アルコール(酒)」を飲まないことで、徐々に緩和されています。しかし、自宅では理由もなく突然、「大声をあげる」、「暴れる」行為が時折あります。この点は、「一人にさせない工夫」が必要です。しかし、奥様の仕事を変えることも出来ない為、娘様夫婦に協力を得ることにしました。
隣町ですが、奥さんが週に1-2回、車でN様を連れに行き、日中は娘様夫婦の自宅で孫の面倒を見てもらう事になりました。お孫さんのお世話をすることで、笑顔も増えるようになり、N様の自宅での「大声をあげる」、「暴れる」行為が徐々に減りだしました。話し相手や面倒を見るという行為が「アルコール認知症」の改善に効果がありました。
また、「記憶障害」は、進行を遅らせる為にも脳に刺激を与えることが必要です。今回の場合は、孫の面倒、つまり頭や身体を使うことが多く、その都度対応しなくてはならない状況に置かれた点が効果的でした。認知症を患っている方に対しては、「一人にさせない」ことが必要です。認知症を治すことはできませんが、進行を遅らせることができます。