特別養護老人施設に入所されている80代の女性Mさんのお話をします。
身体状態は杖歩行、麻痺は軽度、そして軽度の認知症状が見られいる状態で、身の回りのことはある程度自分で行なうことが可能でした。また、最初の頃は他入所者との会話も良好でトラブルも見られていませんでした。
段々と症状が悪化
キーパーソンとなる家族は県外におり、毎月1回の外出を楽しみにされていました。毎月の外出は継続されていましたが、「近くの孫が来るから迎えに行かなきゃいけない」「孫の旦那が迎えに来るからで外で待っていなければならない」等と話すようになってきました。1回、「近くの孫に会う」と言って離設してしまい、近くのコンビニエンスストアで発見されたことがありました。
フロア職員もご本人様の動きを確認していますが、エレベーターを使い、玄関先まで来ることが毎日のようになってきました。その度、呼び止め、ご自身が別のことに注意がそれるまで話を聞く対応をしておりました。
ご本人の訴えはやはり、「近くの孫の家に行く」「孫の旦那が迎えに来る」が多く、午前中の同じ時間に言ってくるようになってきました。次第に外に出ることに執着し、外に出られないことに対しストレスを感じ、怒りやすくなってきました。
その時には相談員や介護職員が時間をかけて説得し、フロアへ戻るよう促します。怒りやすくなる行動が出てきてからは他利用者との会話も上手くいかず、利用者間で言い合いやトラブルを起こしそうになることが増えてきました。顔つきも変わり、対応を早急に検討する必要が出てきました。
対策を検討
当時、Mさんは4人部屋の多床室で、食堂での席も一緒でした。次第に3対1の構図が居室内、食堂内であからさまになってきており利用者間の言い合いやトラブルが起こり始めてきました。もちろん、Mさんは3対1の「1」の方です。
そして3名のうち1名が明らかに尾ひれはひれをつけて広めてしまう性格であるため、話が悪い方向へと進まないよう、その方の話しを未然に聞いて、言いふらさないようにフォローしておりました。
しかし、それでも介護職員がいつも付いている訳にはいかず、4人の関係は悪いままでした。最終的に、同室では着地点が見つからないと判断し、Mさんを別室へ変更することを前提に緊急の会議を開きました。
会議では以下のことが決定しました。
・Mさんの居室変更により、新しい同居人との人間関係が悪くならないように目指す。
・フロアでの利用者間のトラブルの防止のため、職員がお互いの話を聞いてフォローし、ストレスを抱えないように支援する。また、以前同室だった人ともフロアでは会うこともあるので、なるべく遠くに離して座ってもらいました。
・Mさんが事務室まで下りてきた場合は、事務所前で相談員や介護支援専門員がじっくりと話を聞き、落ち着くまで共に時間を過ごす。じっくりと話をする際は、地元での生活がどうであったか、楽しかったこと、印象に残っていることなどを聞いて話をしていきました。
・キーパーソンと相談をし、家族の協力がどこまで可能かを確認しました。Mさんの孫は妊娠されており、孫の旦那様も仕事で忙しいため、電話で話をして頂く等の対応をお願いしました。
・医師に相談し、内服等を行うことも考えられましたが、向精神薬や安定剤の調整は難しく、逆に利用者の身体機能を低下させる、できることもできなくなってしまう、認知症の悪化に繋がる可能性もあることもあるため、見送りになりました。
・個別リハビリで外に出て歩行訓練を兼ねて気分転換を図ることを実施したり、レクリエーションや集団リハビリなどでできる作業や体を動かすことでも気分転換を図ることを行いました。
対策の結果
以上の対策を実施しましたが、我々の力不足もあり、完全にはMさんの怒りなどの行動はなくなることはありませんでした。グループホームや小規模多機能施設であれば、ドライブや外を付き添うことは可能ですが、100名入所の特別養護老人施設となると、なかなかご本人のストレスの解消を都度行うことは困難でした。
最後の方法として、本人の実家、キーパーソンの家の近くの施設への入所を検討し、家族とも密接に連絡を取りながら、本人の周辺症状が酷くならず、安心して生活できる様な環境のある施設を検討し、調整を行っているところです。