グループホームに入所されて8年経つCさん(80代女性)はアルツハイマー型認知症ですが、施設の生活にも慣れ、穏やかに生活されていました。特に内科的な持病はなかったので、今まで病院への入院はありません。
しかし、加齢による影響からか、入所された直後に比べて、身体的な状態は年々低下しており、転倒も増えていました。そして、恐れていたことが起きてしまいました。夜間にトイレに行こうとしていた時に転倒してしまい、大腿骨を骨折してしまったのです。すぐに、近くの病院へ搬送され、手術を受け、しばらく入院して治療を受けることになりました。
リロケーションダメージにより認知症状悪化
今まで、認知症になってグループホームに入所されて以降、他の施設で生活された経験がなかったCさんは、入院によるリロケーションダメージ(環境の変化による心のダメージ)を大きく受けてしまいました。
どんどん精神的に弱っていってしまい、食事量も日増しに低下していってしまったのです。そのため、なかなか治療が進まず、入院期間も長くなってしまい、ますます認知機能の低下、精神状態の悪化という悪循環に陥ってしまいました。
このままでは生命の維持も難しくなってしまうという状況に至ってしまったCさんはグループホームのことだけは、我が家のように覚えておられました。
住み慣れたグループホームへ
入院中に骨折はなんとか治癒したものの、食事量はますます低下していき、このままでは命も落としかねないという状況を見かね、ご家族は我々にある提案をしてきました。それはCさんが最期を迎える場所に関して「希望を叶えてあげたい」と。
Cさんは入院中に、いつも「グループホームに帰って、仲のいい友達に会いたい」と言っていましたので、病院の医師や家族、グループホームの職員で会議を行い、その結果、退院してグループホームへ戻っていただくことになりました。
もちろん、身体の状態は望ましくなく、医師からはこのまま食事が摂れないような状況が続くと1ヶ月も命がもたないだろうということを言われていました。
住み慣れた場所での最期
グループホームへ戻ったCさんは、骨折の影響や食事が摂れず寝たきり状態だった影響で、以前のような生活を送ることはできませんでした。
しかし、見慣れたスタッフや入居者に落ち着いたのか、食事量が改善され、入院中の状態と比べ、みるみる回復していきました。明るい表情も戻ってきて、友人との会話も楽しまれていました。
しかし、退院して6ヶ月後、肺炎がきっかけでCさんは静かに旅たたれました。それでも、本当のご家族、そしてグループホームで共に過ごした友人やスタッフという第二の家族に見守られながら旅たたれたCさんは、最期まで穏やかに明るく過ごされていました。
認知症高齢者にとって、環境の変化は大きな影響を与えます。今回の事例のように病気や怪我での環境の変化は仕方がないことですが、可能な限り、環境を変えないということは、認知症高齢者にとって非常に大切です。そのことを改めて考えさせられた事例でした。