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[認知症の事例] 偽薬を用いた対応で睡眠できるように

 

 Mさん(78歳、女性)は、20代の頃農家へ嫁ぎ、夫と夫の両親と畑仕事をしていました。夫の両親は厳しい人で、大変苦労されたそうです。それから数十年経ち、Mさん夫婦は長男家族と一緒に暮らしていました。

 Mさんが68歳の時に夫が病気で亡くなられ、畑は長男家族が引き継ぎました。そしてMさんが75歳の時、転倒され大腿骨骨折し、家に籠ることが多くなりました。それから程なくして、夜に奇声をあげたり、何度も長男の嫁を大声で呼ぶようになり、軽度であったがアルツハイマー型認知症と診断されました。

 もともとMさんと折り合いが良くなかった長男の嫁は疲弊し、家族の意向で特別養護老人ホームに入所することになりました。Mさんは入所することを良く思ってなかったようですが、もともと話好きだったMさんは入所後すぐに色んな方と仲良くなり、思った以上に楽しく過ごされていました。

 Mさんは、普段は車椅子の移動だが立位はしっかりされており、5メートルくらいならば手すりを持っての歩行や手引き歩行が可能で、尿意便意もある為、失禁することもほぼありませんでした。会話もしっかりされていて、本当に認知症?と疑う程でした。

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夜間の転倒

 入所して半年程経った頃、夜間見回りに行くとMさんがベッドとベッド横に置いていたポータブルトイレの間に転倒されていました。

 幸い、怪我はありませんでしたが、「こっちに置いてるんよ」と独り言のように何度も繰り返しており、「何を置いているの?」と聞き返すも全く話が噛み合わず、意味不明な発言をされていました。

 その日の朝になって夜間の事をMさんにもう一度聞いてみるが、「昨日痛かったわ〜。え?そんなこと言ってたかな?」と転倒の事は覚えていて、会話のことは覚えていませんでした。

 この後、Mさんに夜間のトイレの時はコールボタン押して下さいと伝えるとそれから1〜2ヶ月は転倒もなく、コールを鳴らして見守り介助をしました。

 しかしそれから再び転倒。この時も大きな怪我はありませんでしたが、またしても意味不明な発言、そして翌朝には覚えていませんでした。

 その頃からコールボタンを頻回に鳴らすようになりました。鳴らす時間は0時〜4時頃で、1時間に30回くらい鳴らし、コールの内容は「あそこの人(誰もいない)呼んで。」や「ちょっとそれ(壁を指して)持って。」など意味不明な内容で、いつも閉眼したままこれらのことを話されました。

 だいたい4時を過ぎると入眠され、7時くらいに起きます。そして日中よくウトウトするような生活リズムになりました。日中は意味不明な発言はなく、会話も行動もしっかりされていました。

 これにより職員は夜間の対応がMさんに集中し、他の方の対応が遅れたり、Mさんも睡眠不足になりと悪循環し出しました。

 そして定期受診の時に主治医にこの事を報告すると、よく眠れるようにと精神安定剤を眠前薬として処方され服用することになりました。

 Mさんも「夜間のこと(内容はいつも覚えていませんが、職員に迷惑をかけているとは思っている)が治まり、よく眠れるなら嬉しい。」と話されました。その日から眠前薬を服用し、夜10時頃から朝方まで眠れるようになりました。

 しかし1週間程すると、巡回時に衣服を全て脱いでおられたり、以前の意味不明な発言も現れ、日に日にコール回数も増え、以前と変わらない生活リズムに戻ってしまいました。
その後も主治医に相談し、眠前薬の変更もしたが上手くいきませんでした。そしてMさんの日中ウトウトすることも増してきた為、カンファレンスにて検討しました。

夜間の異様な行動なく睡眠できるための対策

 検討後に試したことは、主治医に確認し眠前薬の時間を早めることにしました。いつも午後8時に服用していたのを夕食後の5時半にしました。すると夜10時頃には入眠されるようになりました。

 しかし1ヶ月もしない間にまた以前のような生活リズムに戻ってしまい、Mさんは夜8時頃になると「薬が欲しい」と何度も言うようになり、その都度夕食後に服用していることを説明しました。

 2ヶ月程様子観察したが、上手くいかないどころかMさんさんの昼間のウトウトが更に酷くなりました。そして再度カンファレンスを行い対応を検討しました。

 次に行ったことは、眠前薬を無くしてしまうことでした。カンファレンスにて「安定剤を服用するようになってから昼間ウトウトが酷くなったように思われる。それならば中止してみるのもありではないか」という結論でした。

 しかしMさんは「薬を服用しないと眠れない」という考えが頭に染み付いてる様子でした。夜8時に薬の訴えも続いていたため、夜8時の眠前薬を偽薬にし試してみました。すると初め、夜間はなかなか寝付けない様子でしたが、昼間ウトウトすることが軽減されるようになりました。

 次第に夜間も少しずつ眠れるようになり、3ヶ月後くらいには夜11時頃〜5時くらいまで眠れるようになりました。Mさんも薬の影響がなくなったためか(Mさん自身は安定剤を服用していると思っている)、今まであった顔の浮腫みが軽減しスッキリした顔つきになられました。Mさん自身も最近調子良くなったと話されていました。

[参考記事]
「[認知症介護]偽薬を使った対応で周辺症状が軽減された実例」

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