Cさんは80代の男性で、アルツハイマー型の認知症があり、私が特別養護老人ホームで働き始める以前から入所されていた方でした。
数年前までは奥さんと二人で生活されていましたが、奥さんも高齢になり、Cさんの認知症の症状が進んできているため、特別養護老人ホームへ入所されたという経緯を聞いていました。
Cさんは日中はテレビを見たり、歌を歌ったりと笑顔でとても楽しそうに過ごされており、排泄も職員の介助を得ながらトイレで行っていました。夜間はCさんは良く寝られ、トイレに起きることもないため、紙パンツに尿とりパットを当てていました。
しかし、私が働き始めて1年が経過したころから夜間に起きてこられ、部屋中に排泄をしたり、紙パンツと尿とりパットは自分で外して破いてから、床に捨てるといった症状が出てきました。そして症状が出て1か月後にはほぼ毎日のように、この症状が出ていました。
部屋に排泄することへの対策
そこで、家族も含めたCさんについてのカンファレンスを開きました。家族の要望としては、部屋中に排泄をするのは本当にやめてほしいので、ベッドから起きた段階でトイレに連れて行ってほしいということでした。
そこで、月額料金はかかりますが、センサーマットを使用し、Cさんの夜間の状態を少しでも把握しやすいようにしました。センサーマットを使用し始めると、Cさんが起きた段階で居室に向かうことができるようになりましたが、Cさんは「ここがトイレなんだよ!」と言って職員の制止を振り切って床や壁に向かって排泄を繰り返していました。
再びカンファレンスを行い、夜間のトイレの場所を分かりやすくしてはどうか、という意見が出ました。そしてトイレの近くのみ電気を点け、暗い中でも場所が分かりやすいようにしました。しかし、Cさんは電気がまぶしいことについては何も言いませんでしたが、トイレの場所を把握することはできず、再び、床や壁に向かって排泄を繰り返しました。
このような日が続いたある日、1人の職員があることに気が付きました。それはCさんが排泄をしている場所が部屋の片方だけであるという事でした。つまり、Cさんはベッドから起きた後、左に向かって歩き、排泄をしていたのです。何度かセンサーマットが鳴った後のCさんの動きを観察していましたが、必ずCさんは左に向かって歩いて排泄をしていました。
そこで話し合いを行い、ベッドから起きて左に向かうとトイレがあるような位置に、ベッドを動かし、トイレの近くの電気を点けるようにしてみました。Cさんには模様替えをすると言う事で、許可は得ていました。
するとなんと、Cさんはトイレに座って排泄をするようになり、床で排泄をすることは一切なくなりました。家族にもこのことを伝えると、「いろいろ考えてくださって本当にありがとうございます。」と言ってくださいました。
最初はいろいろな不安もありましたが、この取り組みを行って自分自身、勉強にもなりましたし、Cさんのためにもなり、本当に良かったと思います。現在でも、夜間は職員が介助をしながらですが、Cさんはトイレで排泄をすることができています。
[参考記事]
「[認知症介護の実例]個々に合った排泄ケアで失禁が減る」