Aさん(90歳・男性)は、家の近くのコンビニで脱水症状のところを発見され、入院していましたが、身寄りが無く、軽度の認知症で家事等が出来なくなっていることから特別養護老人ホームに入所の運びとなりました。
初めは穏やかな表情で職員が声をかけると「よろしく」と言ってくれたり、食事を提供したら自分で全て食べ、尿意や便意もしっかりとあったため自分でトイレに行かれていました。
しかし、ある晩トイレに起きて来られた際に女性職員に抱きつこうとしたり、身体を触ろうとするという行為が入所してしばらくしてから頻回に起こるようになりました。
職員に対して行うだけならと様子を見ていましたが、その後はエスカレートして夜中に他利用者のドアを開け、胸を触るなどの行為が見られるようになりました。夜中は職員の数が少ないため他の人の部屋に入っても気づかないこともあり、利用者からの苦情もありました。
体を触ることへの対策を立てる
Aさんが他の利用者の体を触ることに対してユニット職員で話し合いを行いました。
[対策1]
対策としてまず、夜中に他の人の部屋に入らない方法を考えました。初めに考えたのはAさんが動き出したら、すぐに分かるようにセンサーマットを設置することでした。
しかし、センサーマットは身体拘束に当たる懸念があるため、極力身体拘束をしない方向でとのことで巡視の強化(普段は2時間に1回ですが、それを1時間に1回)をすることと、居室のドアに鈴をつけました。
鈴をつけドアが開いたら音がなるように取り付けていました。また、いつもズボンの中に入れていた小銭入れにAさん同意のもと鈴をつけさせてもらい、歩くと音がなるようにしてなるべく早く気づけるような工夫をしました。
[対策2]
次に根本的な解決策として性的行為をどのようにしたら抑えることが出来るかを考えました。なぜなら、夜間だけでなく日中も頻回に性的行為が見られるようになったからです。
利用者に再三被害が出ることが続いたので一度精神科の医師に相談しました。「最小限の薬で一度様子を見てみましょう」とのことで眠むる前に薬を服用していただくことになりました。
薬を服用していただき、しばらくすると利用者に対する性的行為はほとんど無くなり、穏やかに過ごされることが多くなりました。
しかし、性的行為が無くなった代わりに別の問題が出てきました。それは薬の副作用です。服用から2~3か月経った頃、夜間トイレに行くときにその場所が分からず、うろうろするようになってしまったのです。その結果、排泄が間に合わなくなり、廊下で放尿するという状態になりました。
今度はそれに対する対策を練りました。尿意はまだしっかりとあることから、どうして間に合わないかを考え、観察することにしました。
1つは起き上がりに時間がかかるということでした。寝起きで身体が動きにくくなっているため、背中から頭にかけてのベッドのギャッチを少し上げ尿意を感じたら少しでも早く起き上がれるようにしました。
また、寝る時には靴の位置にも注意し、起き上がる時に履きやすいと思われる位置に印をつけ毎回同じ場所に置く事を統一しました。
2つ目はトイレの位置が分からず、居室で立ち往生されたり、廊下で迷い、間に合わず放尿をしていたため、トイレ時の動作の確認を行いました。
夜間起き、居室から出ると必ず左に曲がられることから、居室から見て左のトイレのドアの電気を夜間明るくしておき、トイレ以外の周りの明かりは足元灯のみで暗くしてみました。
そうするとトイレの位置が分かりやすく明かりのあるトイレの中に入るようになっていました。トイレに行きたいと感じてからの動作を毎回同じにすることで、少し迷いも無くなり放尿や失禁は減っていきました。
今は薬の効果か分かりませんが、性的行為が落ち着いてきているので医師に適宜相談し、薬の服用状態やAさんの状況等、細目に記録したものを伝えて、出来る限り薬に頼らずに介助の方法や声掛けの仕方の工夫をしています。
今回のケースでは薬を服用させてもらいましたが、環境調整や声掛けの仕方によりまだまだ改善すべき箇所があります。Aさんの状態や状況に応じ穏やかな日々が送れるように今後も支援を続けていきます。