これまでの経緯
Sさんは現在70代後半の女性で、長男家族との同居暮らしをされています。
身の回りのことは、数年前発症した認知症による記憶障害と見当識障害があるため、適時の指示や誘導などが必要ですが、食事や排せつ、入浴といった基本的な生活動作は失敗することなく概ね自分でできる状態です。
介護サービスは、認知症の進行予防と介護者の休養を目的に、2か月ほど前から、週に2回のデイサービスを利用しています。
問題行為の発生
Sさんに利用していただいているデイサービス事業所は、認知症のある高齢者が自宅と変わらない雰囲気で過ごせるようにと、民家をバリアフリー化するなどの改修が行われた事業所をご利用いただいています。
問題の行為は、この民家改修型の小規模デイサービス事業所を利用しているときに確認できたものです。
この時の様子は、介護職員が「Sさん、お風呂の順番が近いのでトイレを済ませてくださいね」と声掛けをし、用を済ませることを促し、Sさんもいつものように「はい」と言い、自分1人でトイレに向かわれた後のことでした。
数分たってもトイレから出てこないSさんを不思議に思った私は、様子を窺うためにトイレへ行くと、その途中の廊下でばったりと出くわしました。
私は、「手を洗ったけれど落ちないの」とつぶやくSさんの言うとおり手を見ると、爪の間に泥のようなものが付いているのを確認しました。
再び洗面台へ戻り、手をもう一度洗ってもらうと、便臭のような臭いがしたため、もしやと思い確認をしたところ、それは間違いなく「便」で、理由を問うと、Sさんは「便が出ない時にはこうするの(と指を動かし)、昔、私は看護婦だったから大丈夫」との回答がありました。
改善に向けて
Sさんのケースファイルを確認すると、確かに生活歴には看護婦(看護師)と書かれていることが確認できました。
しかし、看護師だからといって自ら摘便を素手でしてよいのか?これはいわゆる問題行為ではないか?との疑問から、他の職員と相談をし、これまでに同様のことがあったのかなど、家族へ電話をして確認することにしました。
Sさんのお嫁さんから、実は自宅でも時々同様の行為が見られ、困っているとの回答を得たため、問題行為の範疇にあると私たちは位置づけ、改善に向けての取り組みを検討することにしました。
具体的には、自宅において便秘にならないような食生活へと気を付けてもらうこととし、自宅とデイサービス事業所双方において共通の「排泄チェック表」を用い、特に排便の有無の確認を行うこと、さらには、3日間の排便がないときは、市販の下剤を用い、排便を試みてもらうことを帰りの送迎時に主な介護者であるお嫁さんと確認し合い、実施することにしました。
改善策の効果
自宅とデイサービス事業所双方において、共通の排泄チェック表を用いたことにより、Sさんの連続性のある排泄の記録が作成でき、ここから排泄(排便)のリズムを掴むことができました。
さらに、一定期間排便がない場合は、市販の下剤を使用することにより、便が出ないと苦しみ、自分から摘便を行ってしまう前に排便することができるようになりました。
結果的に、私たちが問題行為とした自ら摘便を行うという行為は、自宅でもデイサービス事業所でも見られなくなりました。
排泄や食事など、介護などの記録の重要性を再認識した事例です。