これまでの経緯
Kさんは、70歳代の女性、食品加工業へ勤める長女との同居暮らしです。長女は勤務のため、平日の日中、Kさんはお1人で過ごすことが多くなっていました。
しかし、認知症のため物忘れが多くなり、自分の置かれている状況や時間、場所といったことが曖昧になる見当識障害も見られてきたため、デイサービスの利用を開始することになりました。
外出拒否の発生
デイサービスの利用開始日、初日ということもあり、送迎用の車両でお迎えに伺うと、長女さんも一緒に待ってくれており、今後の戸締りの仕方や、昼食後に服用する薬の説明などを行なってくれました。
Kさんは腰痛のため、両手を膝の上に置き、前かがみで歩行をするのが特徴で、この姿勢で送迎車両まで歩き、自ら後部座席へ乗り込みました。デイサービス初日の利用にも関わらず、他の利用者と会話をするなど、楽しそうに過ごしていただけました。
2回目の利用日となる翌々日、デイサービスの送迎用車両でお迎えに伺い、玄関ドアをノックしたところ、何故か誰も出てくる気配がありません。この事をデイサービス事業所へ電話で報告し、事業所からKさん宅へ電話連絡を入れてもらいますが、電話の呼び出し音が家の中で鳴るだけで誰も応答する気配がありません。
こういうのは送迎時のアクシデントとして、たまに発生するのですが、病気等で倒れている場合もあるため、裏庭側へまわってみると、Kさんは花の水やりをされていたところで、こちらは一安心しました。
デイサービスのお迎えに来たことを伝え、「一緒に行きましょう」と声をかけたところ、「草花や飼い猫の世話があるから」と、一向に行く気にはなってくれません。
私は、次の人の送迎もあったため、Kさんにまた来ることを伝え、デイサービス事業所へ他の人をお連れした後、再びKさん宅へ向かいました。今度は玄関をノックすると、直ぐに出てきてくれ、「誰?」と一言。デイサービスのお迎えに来たことを伝え、送迎車両へ乗車することを促しますが、やはり草花や猫の世話などを理由に、一向に出かける気にはなってくれません。
この様子を見るに見かねたお隣さんが助太刀してくれ、「Kちゃん、楽しいから行っておいで」と声をかけてくださり、Kさんも「そうか?」といった感じで、すんなりと送迎用車両に乗車してくれました。その日のデイサービスでは、朝のことを忘れたかのように楽しそうに過ごしてくださいました。
外出拒否の改善
このような事が数回繰り返され、お隣さんには本当に助けられました。毎回同じ職員が迎えに行ったことにより、職員の顔を覚えてくれたようで、「またあんたかね。あんたならしょうがないね」と、あの朝のやり取りをすることなく、すんなりとKさん独特の歩き方で送迎車両に乗車してくれるようになりました。
しかし、お迎えの職員がいつもと異なる場合は、やはりお隣さんのお手伝いが必要となってしまいます。ですので、私が働いているデイサービス事業所では、このKさん以外についても、「顔を覚えて欲しい」という理由から、必ず2人で送迎業務を行うようにし、認知症のある高齢者に不安感を与えないように取り組んでいます。
これで2人の内、どちらかの人が休んでも対応が可能になります。誰だか分からない人と一緒に車に乗ってどこかに行くのは我々でも恐いことですからね。認知症であればなおさらです。
まとめ
昨日のことや、ほんの少し前の事でさえ忘れてしまう認知症高齢者であっても、繰り返しにより人の顔を覚えてくれ、また、信頼してくれるということが分かった事例です。
このような取り組みは成果が出るまで時間はかかりますが、認知症高齢者だけではなく、我々事業者にもメリットがあることですので、長い目で取り組んで頂けたらと思います。
私の知り合いが働いている事業所では拒否した場合には抱きかかえて力ずくで連れ出すことや、その場凌ぎの嘘をついて連れ出すなどをしていると聞きます。
しかし、信頼感ができればこういうことは全く必要がありません。Kさんは、今ではあの朝のやり取りをすることなく、さらに行く回数を増やして利用をしてくださっています。