Sさん(女性)は旦那様が亡くなられてから1人暮らしをしていました。
3年くらい前に息苦しさを覚えた為、病院を受診すると「低酸素血症」と診断され、在宅酸素を利用する事になりました。
鼻からのカニューレを使用して生活を送っていたのですが、ここ1年くらいで認知症の症状が見られてきた為家族が心配になり、娘さんの自宅のそばの介護付き有料老人ホームに入居する事になりました。
認知症でもある程度自力で生活を送れる
入居当時は認知症の症状は軽度であり、声掛けやタイムスケジュールを記入した資料をお渡しすれば、ある程度自分で何でもできる方でした。
在宅酸素やカニューレの使用方法などもある程度自分で行う事ができたので、職員はその見守りや確認のみを行なうようにしていました。
食堂や入浴室に行くときは、酸素ボンベを利用していたのですが、時々ボンベの中が空の状態で来てしまうので、酸素ボンベの残量や取替については職員が対応するようにしていました。
Sさんに対しての介護はこの程度で、他はほとんど介護を行う事はありませんでした。他者とコミュニケーションをとる事が好きな方なので、行事やレクリエーション等にも積極的に参加をされるような方でした。
慣れてきた頃から生活に異変が起きる
入居して半年くらい経ったある日の夜、Sさんから「苦しい」とナースコールがあり急いで訪室すると、ベッドで横になっているSさんを発見しました。
電気を点けて状態を確認すると、酸素をしていない状態で横になっています。
在宅酸素から繋がっているカニューレを探していると、そのままごみ箱に捨てられていた為、新しいカニューレを出してSさんに使用してもらいました。
5分くらい経つとだんだん呼吸も安定してきた為、Sさんに何故カニューレを捨てたか聞くと、「誰かが捨てた」と話されたのです。
外が暗くなる時間から少しずつ不穏に
その後もSさんのカニューレ外しは続き、その都度職員がつける対応をしていました。
そういった行為は決まって夜間帯で、日中はいつも通りの生活を送っていました。
在宅酸素のカニューレを自分でつける事も出来ますし、「自分には酸素が必要だ」という事も理解しているのですが、夕方ごろから不穏や不明な言動が見られるようになり、「こんな物いらない」「これが私の体を壊そうとしている」等と話されるのです。
このままでは危険だと感じた職員はSさんの対応について話し合いを行いました。
対策方法は?
カニューレを長時間外してしまうと最悪の事態を引き起こす可能性があるので、まず掛かりつけ医に相談し、現状を報告しました。
医師はSさんの日中の活動を増やす事や、しっかり睡眠をとる事が大事であると話されました。
確かにSさんは夜中2時~3時ごろまで起きており、朝食までの3時間程度しか休まれない方でした。職員も休むよう声はかけますが、眠らない事は知っていたのでほとんど放置状態にしていたのです。
そうした状況でしたので、日中は眠たくて、機能訓練や行事等にここ何ヶ月か参加していませんでした。
体のリズムは心のリズム
職員はまず夜間帯にしっかり眠れるよう医師より処方してもらった眠剤の使用と、夜眠れなかった場合も無理ないくらいに日中の活動に参加してもらうようにしました。
カニューレを外してしまう行為については、1時間1回居室の確認をし、外れていたら付けるように声掛けをし、寝ていた時には外れていたら付けるように対応していました。
3週間くらいすると、昼夜逆転傾向はなくなり、夜もしっかり休めるようになりました。
夜休めると、カニューレを外してしまう行為もほとんどありません。
夜間せん妄に関しても不明な言動が聞かれる事は少なくなってきている状況です。
しっかりとした生活リズムで過ごす事が大事だと考えさせられた体験です。
[参考記事]
「重度の認知症の人の昼夜逆転現象が機能訓練で大きく変化」