初めにこれからご紹介させて頂くのは『ユニット型』の施設での対応ですので、あくまでもユニット型での認知症の対応の例として読んで頂きたいと思います。
入所に至るまでの経緯
78歳でアルツハイマー型認知症と診断されたIさん。若い頃、嫁ぎ先で農業を営んでましたが、Iさんが50代の時に夫を亡くされ、お子さんはいらっしゃいませんでした。
姪っ子夫婦と同居されておりましたが、認知症が進み介助が困難になった為、当施設に入所されました。若い頃からカラオケ(主に民謡)が大好きで、現在もしっかりと歌う事が出来ます。
主な認知症の症状
入所当時のIさんの認知症の症状は、『注意力が散漫』『強い介助拒否』『他の入所者さんの食べ物を食べる』『こちらの言っていることが理解できない』『見当識障害』等がありました。
主に職員が対応に力を入れたのは『注意力が散漫』『強い介助拒否』『他の入所者さんの食べ物を食べる』事を防ぐ事でした。
認知症の対応するに当たって
ユニットには12人の入所者さんがおり、職員は日中は2〜3人、夜勤は2ユニットで1人体制でした。
ユニット内は食事や団欒をする食堂と少人数でテレビを鑑賞できるスペースがあります。認知症の方の対応は主に小さいスペースで行われていました。
では、各症状に合わせてどのような対応をさせて頂いたのかご紹介します。
〇注意力散漫の時の対応
注意力が散漫な時は歩いてる職員や入所者さんが気になり目の前の事に集中出来なくなったり、ソワソワと落ち着かずユニット内や廊下を歩き回る事が多くありました。
そこでまず気をつけた事は職員がバタバタせずに出来るだけゆったりとした行動を取ることでした。そうする事によって注意力が散漫になる事が減って行きました。
それでもどうしても落ち着きがなくなり歩き回り始めた時には、一切行動を抑制しませんでした。さり気なく職員がIさんに近付き、会話をしながら職員に注意を向けるようにします。数分間会話をすると落ち着いて来たので、そのまま『疲れたからお茶飲みませんか?』と小さいスペースへ誘導。
職員も一緒にソファーに座り、お茶を飲みながら、Iさんが大好きな小さい子供が出てるDVDをかけ、見ているとDVDに集中し始め、落ち着きを取り戻しました。その際Iさんから食堂が見えないように、食堂に背を向けた状態で座って頂きました。そうする事によって、人の動きが見えにくくなり、ゆっくりとテレビを見れるようになりました。
〇強い介助拒否の対応(入浴)
Iさんは特に入浴に対しての強い介助拒否が見られました。原因は「羞恥心」です。誰でも羞恥心はありますがIさんは特に強い傾向にありました。
当施設には大浴場と家庭のお風呂と同じ位の小さな浴室(以下個浴とします)の2つがあります。Iさんは大浴場に入ると上記に書いたように酷く混乱してしまい、入浴が出来ない状況が多くありました。
そこで、大浴場から個浴へ変更し、様子を見る事になったのですが、浴室までの誘導も困難になっていきました。Iさんは『お風呂』と聞いた途端に拒否。
そこで声がけの方法を変えてみました。Iさんはカラオケが大好きなので『Iさん、カラオケに行きませんか?みんなIさんが歌ってくれるのを待ってるんですよ!』と声をかけると嬉しそうに自ら身なりを整え、玄関で靴を履いてくれました。
ユニットを出た所で『Iさん!洋服の後ろに少しシミが付いてるので着替えてから行きましょう』と声をかけるとスムーズに個浴まで誘導出来たのです。個浴まで誘導出来れば、浴室を見てお風呂だと言う事を認識できるので、そのままスムーズに入浴を済ませる事が出来るようになりました。
〇他の入所者さんの食べ物を食べてしまう時の対応
食事は4〜5人ずつのテーブルで食べてました。特にIさんの目の前の入所者さんの食事やオヤツを食べてしまうのです。この場面でも小さいスペースを活用しました。1人ポツンと食事をするのは寂しいので職員も付き添います。そうする事によって、注意力が散漫にもならずに食事に集中出来るようになりました。
まとめ
Iさんは認知機能が落ちてきている時期だった為に、一気に色々な症状が出てきました。
初めは職員も対応の仕方が分からずに、その場しのぎの対応を取ってしまっていた為に余計にIさんの混乱を招いてしまいました。認知症の方の対応で1番大切なのは『みんな同じ対応をする事』です。そのため、常に職員同士で情報を共有することが大切です。
また、『介助拒否』や『ソワソワする時』等には必ず何かしらの理由があるものです。他部署の職員やご家族様も含め、一緒に原因を探り突き止め、それに対してどの様な対応を取ったら良いのかを何度も検討し、試しました。時間はかかってしまいましたが、1番適切な対応を取ることによって、Iさんも職員も辛い思いをせずに生活出来るようになりました。