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軽度認知症の方が毎晩深夜に起きる理由は 

 

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●軽度の認知症をお持ちのFさん

 有料老人ホームに入居されている70代の女性、Fさん。軽度認知症をお持ちです。自分の身の回りのことは一人でできていますが、ご家族には迷惑はかけたくないと入居されました。

 入居されてからは洗濯物たたみや、他の入居者様が飲まれたコップを洗う等積極的にお手伝いをしてくださっています。お話されることもお好きで、スタッフとよく談笑される光景が見られていました。

●深夜の「トークタイム」

 Fさんは日付や人の名前を覚えるのは認知症もあり苦手のようでした。今日が何月何日か分からなくなってしまう見当識障害は毎日のことでしたが、それによって混乱されたり落ち込まれる様子はなく、「あたしも年ね」と笑い話にされていました。

 体の状態としては膝が悪く、歩行がやや困難な様子でしたが、杖を使用しなくても歩行が不安定になることはありませんでした。

 そんなFさんは毎晩、深夜1時を過ぎると決まったように居室からリビングへ来ます。リビングの椅子に座ると大抵30分程、長いときで1時間スタッフとお話をされています。そしてある程度話をすると「仕事の邪魔をしては悪いから」とご自分から話を切り上げ居室に戻られます。

 お話の内容はFさんが若い頃のこと、働いていた時の話が中心です。スタッフの家族の事を聞かれたり、「仕事はつらくない?」と心配して下さることも毎回でした。他のご利用者様やスタッフへの愚痴めいた話は聞いたことがありません。

 当初は途中で覚醒されることをスタッフ間で心配していました。ですが居室に戻られてからはさほど間を空けず入眠され、そのままよくお休みになられています。朝食の時間までには起床し着替えも済ませていることから、スタッフ間では深夜、リビングにいることを止めなくても良いのではという結論になりました。今では「深夜のトークタイム」と密かに呼んでいます。

●他の利用者様に気を使って

 Fさんが深夜にリビングへ来る理由をスタッフ間で考えましたが、初めのうちは、夜中にトイレで目を覚ましたついでにスタッフと話をすることが習慣となったのではと考えていました。軽度認知症で、徘徊などの周辺症状もありませんので、はっきりとした理由は分かりませんでした。

 本当の理由はFさん本人からある時、偶然聞くことが出来ました。Fさんによると昼間はスタッフはいろいろ仕事があって忙しそうに立ち回っているし、他の入居者様の手前自分の話し相手にさせるのは悪いと言ったのです。なので深夜に起きてくるのは偶然ではなく、意図的にされているとのことなのです。

 この話はスタッフ間でかなり驚きを持って伝わりました。Fさんがそんなに他のご利用者様やスタッフに気を使っているとは思いも寄らなかったのです。きっと他のご利用者様には自分の話を聞かれたくないとの気持ちもあったかもしれません。

 そして、何より家族と離れていることで寂しさが募って、人との関わりを強く求めていたのだと感じました。そうでないと、毎晩起きてくる理由が付きません。認知症がこれ以上進行しないように、Fさんとの関わりを積極的にしていこうとスタッフ間で話し合い、今でも、深夜の「トークタイム」は続いています。

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