認知症の症状によって脳の前頭葉まで萎縮が進むと社会性や理性を司る部分も影響を受けるため、感情を抑えられなくなるケースが多々あります。怒りを抑えきれずに、暴力行為が現れるケースもあり、現に私は杖で頭を殴られた事があります。このような場合にどのように対応しているか、幾つかお伝えします。
介護者を違う人に替える
認知症の人が怒っている場合、同じ人が関わることで、怒りは増悪する事が多い為、替われる人がいる場合は替わるようにしてください。
家庭の場合には中々介護者を替えるということは難しいですが、何人かで介護している場合には一時期でも違う人に替わってもらいましょう。もし、一人で介護している場合には怒りが収まるまで、他の場所に避難するのが無難です。
施設の場合、介護職員といえども人ですし、認知症の人との相性があります。怒っている場合には介護する担当者を替えるための処置を取りましょう。
話を聞く
担当が違う人に替わり、少し怒りが収まった後に、何故暴力行為に走ったのか、何が気に入らず、何をどうして欲しいのかという事を認知症の人から引き出します。これは今後の介護に繋げる為ですが、本音を引き出すのは容易ではありません。認知症の人との関係性を築いていないと表面的な受け答えだけで終わってしまいます。隠された本音を引き出すのは本当に困難です。ですが、もし本音が引き出せた場合にはその暴力行為に走った原因を解消できるような環境整備を行います。
また、認知症の人が怒った原因が妄想や勘違いなこともありますので、そういう意味でも話をして、原因を突き止めましょう。
利用者同士の場合
介護保険サービス関連の事業所内の事案の場合は、暴力行為の相手が他の利用者である場合もあります。そんな事態が発生しないに越したことはありませんが、時として発生します。職員であれば「殴られた」で済みますし、せいぜい私の遭遇したような杖で殴られたケースでも念のために脳神経外科でCTを撮る程度で済みます。しかしこれが利用者である場合はそうはいきません。これが認知症の人同士であれば尚更で、目も当てられない状況が待っています。
私が介護の仕事に就いて間もない頃の経験をお話しします(8年前)。認知症のAさんとBさん(2人とも認知症)は本当に仲が良い関係でした。しかし、Aさんの被害妄想が激しくなり、その矛先はBさんに向かってしまいました。ついにはAさんはBさんの部屋のドアを何度も蹴り、さらには奇声を挙げながら暴力行為に及びました。認知症の人の対応をした経験が無い人から見ると、「錯乱している」と表現するだろうと推察されるくらいの現場です。
その場は一端収まったのですが、それからも被害妄想による暴力行為は続き、殴られた方が入院するまでついに和解に及ぶことはありませんでした。まだ介護職員になりたての頃とはいえ、お二人の人間関係を支援できず、大変後悔が残る事例でした。
介護現場では厚生労働省令に規定されている特別な事情が無い限り、認知症の方を拘束する事は出来ません。軽い暴力行為程度では特別な事情に該当しない為、安全を確保する目的で当事者同士を引き離すしかありません。
[参考記事]
「脳血管型認知症により暴力行為が収まらない男性の事例」