認知症になっても一人暮らしをしている方はいらっしゃいます。私の勤めている施設には行政から保護目的で受け入れを要請されるまで、独居で暮らしていた認知症の方もいます。
こうなる前に家族の方が認知症の身内を一人暮らしをさせる際に気を付ける点について説明していきます。
一人暮らしのデッドラインを定めておく
残念ながら認知症は進行性の疾患で、進行に伴って様々な症状が出る厄介なものです。どこまでであれば独居の継続が可能で、どこからは無理なのかのラインを前もって引いておくことが認知症の人を守ることに繋がります。「〇〇になったら、介護施設もしくは子供の家に引っ越す」というイメージです。
このラインは「取り返しの付かない事態に発展する可能性があるのか否か」です。例えば火の取り扱いに関してきちんとできるのか、気温が高い部屋にクーラーをかけないで過ごしている、食べ物をあまり食べていないので痩せてきているなどです。
何故、ラインを事前に決めておくのかというと、いざ何らかの事態が起きた後に話し合っていては遅いからです。その間に認知症の人に何が起こるか分かりません。(認知症の方の介護に関して)特に普段から口出ししてくる人が居る場合は、話し合いに時間を要します。また、介護もをせずに年に1,2度だけ様子を見る程度の人もいるため、どれだけ差し迫った状況か説明しても納得しないケースもあります。
もし、デッドラインにかかった場合、どのようにお金を分担するかという話になりますので、事前に話し合いをしておきましょう。お金の話は相続の話も絡むこともあるので、時間がかかります。
一人暮らしが可能かどうかのライン
さきほど、一人暮らしのデットラインを「取り返しの付かない事態に発展する可能性があるのか否か」とお伝えしましたが、これは具体的にはどのような行動なのかをもっと具体的にお話しします。
取り返しがつかないこととは生命にかかわることなので、大きく分けると交通事故、行方不明、火事、気温、食事に対する対応です(火事では隣家の住人の命も危険に曝されます)。
[例]
①出掛けた先から帰って来れなくなった事が最近増えてきた場合。
私は認知症の方が交通量が多い道を青信号で渡るところを発見したり、真冬の寒空の中で5時間程帰ってこなかったりということを経験しています(私が勤めている施設の入居者です)。いずれもたまたま運が良く、無事に帰ってきましたが、お亡くなりになっていても全く不思議ではありません。
発見されたのが行方不明になった当日なら82・5%が生存していたが、翌日ならその日に発見された人の63・8%、3~4日目は計21・4%と低下。5日目以降の生存者はいなかった。
亡くなった人の4割以上が程度の軽い認知症で、研究班は「軽度だからという先入観を持ってはならない」と警告している。朝日新聞より引用
②料理の時の火の不始末や、(これは冬限定ですが)コタツに服を隠したり、置いたりするようになった場合。
私の認知症だった祖母は料理の時にボヤ騒ぎを起こしましたが、本人も勿論ですが家族の生命にも危険が及ぶということで施設利用の決め手になりました。
③暑いのに厚着、寒いのに薄着をするなど気温に対して、無頓着な行動を取る場合。
夏は特に熱中症になり、命の危険が高くなりますので要注意です。
④冷蔵庫の中の食品が腐っている場合。
宅配やスーパーなどでたくさんの食品を買っても食べないで腐らせているケースも意外と多いです。食べると食中毒の可能性もありますので、こういう食品を見つけた場合には少し警戒をしてください。
一人暮らしの場合は中々目が行き届かないので、相当な注意を要します。家族が頻繁に行けない場合は、訪問介護・近隣住民・市区町村の見守りサービスなどを組み合わせて数日間も1人ということはないようにしましょう。
認知症の方が起こしたことでも家族の賠償責任が生じる恐れもありますので(実際にそれを争点にした裁判がありました)、必ず一人暮らしが可能かどうかの基準を事前に家族で決めておいてください。