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同じ話を何回もする認知症の症状に対して私が行った対応(実例)

 

 養護老人ホームに入居していたSさんは80代後半の女性です。アルツハイマー型認知症で、要介護度5です。普段は車椅子に乗っていますが自走はしません。非常に穏やかな方で、怒ったりすることもなく、いつもニコニコと笑っています。

 しかし、認知症が進行しており、同じ話を何回も繰り返します。一語一句違わず、何回も同じ話を続けます。昔住んでいた田舎の景色、よく通っていた道、そこではどんな花の香りがしていたのかを接している間ずっと繰り返していました。こちらに時々質問してくる内容もタイミングも毎回同じです。見たことない景色なのに私も行ったことがあるかのような錯覚があるくらい鮮明に話してくださるのです。

 Sさんにとって、非常に思いで深い景色であり、大事な記憶なのだと感じます。何回も同じ話をされると嫌になり、話をさえぎる対応を取ってしまいがちですが、私はそのような気は起こりませんでした。

 また、Sさんの認知症の症状は、短期記憶障害が顕著に表れていました。時間や日付などはすぐに忘れてしまいます。だからこそ尚更、昔の記憶の一つ一つが大事なのだろうなと感じます。もし自分が認知症になって記憶障害になってしまったとしたら悲しみに暮れると想像します。

 そしてそれと同時に、鮮明に覚えている事柄が一つでもあればそれを大事に忘れないように、周りの人にその出来事を語って覚えていてほしいとも思います。しかも、一回では忘れてしまうので、何回も繰り返し話すかもしれません。認知症高齢者の方の心の底にはそういう思いがあるのではないかと想像しながら接することが大切だと感じます。

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何回も同じ話をする場合どうするのか

 では実際にSさんに対して、どのように接していたのかを説明します。同じ話を繰り返す方に対する接し方として正解はわかりませんが、Sさんと話すときは相槌を入れるタイミングや質問をその都度変えることを意識していました。

 Sさんは毎回質問を変えてもそれに対してはしっかりとした返答をくれます。相槌や質問を変えても話の内容などは変わりませんが、返答の明確さに驚かされました。ただ、繰り返し同じ会話を続けているだけではなく、私の返答もしっかり理解して考えてくれていることを初めて確認しました。だからこそこちらも毎回同じ相槌などではだめなのだと感じました。

 私がこの他にも行なったことがもう一つあります。Sさんは昔住んでいた田舎に咲いていた花の香りに強い思い入れがありました(花の名前は分かりませんでした)。そこで何種類ものアロマ用のオイルを買ってきて、「その花はどんな香りがしましたか」と問いかけてみたのです。

 そうしたら、そのうちの1つの香りに対して「これだよ」と感激した表情を浮かべながら言ってくれました。非薬物療法に回想法という方法がありますが、これは昔の出来事を思い出すことで脳を活性化させようとする方法ですが、花の香りを嗅いでもうらうことで記憶を強化できるのではないかと考えました。

 私が行なった2つの対応を紹介しましたが、「これをやれば効果がある」というHOW TO的な考えでは対処できない事も多々あります。ですので、私は「同じ話を繰り返す方に対する接し方として正解はわかりませんが」と前置きをして話をしたわけです。

 認知症高齢者とのコミュニケーションは非常に難しいもので、感情失禁につながることを私たちプロでも行なってしまうこともあります。しかし、失敗した接し方でも無駄なことではないのだと感じます。そこからその人はどんな人間なのかなど分かることがたくさんあります。認知症高齢者だからこそ、人柄が見えやすいということも多いです。

 認知症高齢者に対してどういったコミュニケーションを図るべきかという疑問は、相手がどんな人柄であるかを理解するとコミュニケーション方法もたくさん見つかります。その方の人柄を考えて接し方を変えている訳ですので、認知症の方の数だけ、対応方法はあるということです。ですので、決して「〇〇をやれば効果がある」などという短絡的な発想をしない事が大切かと思います。

[参考記事]
「認知症の中でも一番多いアルツハイマー型認知症の症状は?」

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