この記事ではデイサービスでの認知症の男性と認知症の女性の違いについてお伝えします。
男性利用者と女性利用者の違い
認知症の方の中でも女性利用者達は一様にコミュニケーション能力が高いように思います(例外もありますが)。初めてのデイサービスへの通所で緊張していても、初めて会った人達に「今日はいい天気ですね」の一言で、話の輪に入ることが女性にはできてしまうのです。
職員が「この方は今日からこちらに来られた〇〇さんです。緊張しておられるそうです。」なんて初めて来た認知症の人を他の女性利用者達に紹介しようものなら、「あら〜そうなの?大丈夫よ〜!こっちの席にいらっしゃいな!」と、すんなり受け入れてくれます。
男性だと、このようにはいきません。退職するまで一家の大黒柱として汗水垂らして働き家族を養い、家長としての威厳を大切にしている男性利用者達は、硬派な方が多く、寡黙で、上下関係に厳しいように思います。
女性のテーブルでおしゃべりが絶えない中、男性のテーブルでは会話もなく、腕組みをして微動だにせず、ひたすらテレビを観たり、椅子に座ったまま眠ったり、ただ時間が過ぎていくのを待っているのです。
中にはとても社交的で、自分から誰にでも話しかける男性もおられますが、他の男性に話しかけても一言二言で話が終わってしまい会話が弾まず、そのうち話しかけることを止めてしまいます。スタッフが間に入って会話をしても、男性同士は会話へと発展することはあまりなく、結局職員対個々の利用者の会話になってしまいます。
男性はプライドも手伝って、誰の世話にもならん!と言わんばかりに、通所の必要性を否定する傾向があり、通所するための大義名分を必要とします。私のデイサービスの送迎車には施設の名前が書いていますが、ある時男性利用者から「あの車に書いてある(施設の)名前、消すことはできないのか?」と言われたことがあります。施設に通っていることを近所に知られるのが嫌だったようです。
申し訳ないことに、私の施設には名前が書いてある送迎車しか置いていません。その男性利用者にはその旨を伝え、身体のリハビリで通っているので、近所の方も変には思われないだろうということを話し、その場は納得していただきました。
そして、女性利用者達のほとんどが未亡人であることに対し、男性利用者達は奥様がご存命な方がほとんどです。そのため、男性利用者は亭主関白の名の下に、奥様に依存する傾向があります。認知症による自らの変化に不安を感じ、余計に奥様に依存すると、主な介護者である奥様の介護負担は大きくなり、そうするうちに奥様が根をあげ、結果通所の運びとなることはよくあるケースです。
そんな男性利用者達のケアとして、本人の認知症のケアに加え、介護者である奥様の介護負担の軽減も大切なケアの一つとなります。奥様の介護負担軽減のためデイサービスに通所してほしいけれど、それを本人に説明しても納得できる方はそうそうおられません。「俺が邪魔だというのか!」と怒ったり、へそを曲げて家に引きこもってしまう方もおられます。
また通所できても1時間も経たずに「帰ります」と。中には本当に帰ろうと外に出て行こうとしたり、職員が止めて説明しても納得できず、「お前らに俺を引き止める権利はない!」と声を荒げたり、暴力に発展してしまう方さえいます。
どのような方法でもデイサービスで時間を過ごすことができないという方は、帰宅していただくことがあります。介護においてご本人の意思が何よりも一番尊重されるべきですが、介護者の介護負担軽減を目的とした場合のケアにつながらないため、このような場合は施設としてはやるせない気持ちになります。
●自分の居場所を見つける
デイサービスは、どんな方にとっても自宅と同様に、施設も自分が居たい場所、安心できる楽しめるところになるように心がけていて、女性も男性も楽しめるプログラムを用意しています。屋内ではカラオケや卓球、簡単な木工や修繕、屋外では散歩、農園の手入れや野菜の収穫、喫茶や歴史資料館への外出、時にはボーリング場へ行くこともあります。
特に何かの勝負事や体を動かすこと、以前の仕事に関係することやスキルを使うこと、また知的興味をそそられるプログラムは男性に受けがよく、そのようなプログラムの中だと、普段寡黙な男性達も互いに応援しあったり、体験談を話したり、少しですが利用者同士で会話をするようになります。
また、個々の趣味や身体・認知レベルに応じて、個別のプログラムも設けています。難易度が様々な脳トレ問題集に取り組んでいただいたり、将棋や囲碁が好きな方は職員やボランティアさんと対局する時間を設けたり、農家の方には農園の手入れの指導をお願いしたり…。
車関係の仕事をされていたAさん(75歳男性)は認知症の進行により視覚的混乱があり工芸などの手作業はできず、テレビ画面に出る歌詞が読めなかったため大好きなカラオケにも消極的で、「デイサービスにいる間は喫煙の時間だけが唯一の楽しみ」と職員に漏らすほどでした。
ですが、ある夏に一緒にデイサービスの送迎車を洗車しました。自分が興味のある車に関係することとなるとやはり楽しかったようで、実際に車の汚れを落とせなくても、洗車をしたという満足感と達成感で、終わった後は晴々した表情で「またいつでも手伝うから言ってね!」とAさんはおっしゃってくださいました。
他にも、「普段家でできない頭の運動(脳トレ)ができるから」、「将棋仲間や囲碁仲間が誘うから」、「俺が教えてやらないと農園の手入れができないから」…と、どんな理由であれ、楽しいと感じたことがデイサービスに通うモチベーションに繋がっていくように思います。特に男性は、頼られることが満足感につながるのではないでしょうか。
適度な距離感を保つ
誰でも施設に初めて通所する時は、不安で緊張するものです。認知症が進行して失認や徘徊といった周辺症状が出てから施設を利用する方が多く、そのほとんどに認知症の自覚はありません。
認知症で周りの状況が理解できないのであればなおさら不安は募ります。その不安を取り除くためには信頼関係を築き、安心してもらうことが必要不可欠です。信頼関係を築くために、誠実に対応することはもちろんですが、異性の介護者の場合は気をつける必要があります。
こちら(介護職員)は信頼関係を築いているつもりでも、男性利用者側からは恋愛対象に思われていたという例もあります。実際に、私の施設で、C介護職員は親ほど年の離れた男性利用者Dさんとデイサービスのプログラムのことや、やってみたいことなどいろいろ話ができる関係でした。
はたから見ても、お互い信頼関係を築いている様に見えましたし、認知症であるDさんの自己実現を手助けしたいという一心でC職員はDさんの対応をしていたのですが、ある日、C職員はDさんからラブレターをもらうようになりました。
異性の介護者に対して恋心を抱くことは比較的良くあることですが、このDさんのケースの場合、内容が現実とかけ離れ、かなり具体的に妄想を示してきたことから、落ち着くまでC職員はDさんへの対応を極力避けなければなりませんでした。行き過ぎた信頼関係は依存にも繋がってしまうので適度な距離感は大切です。
とはいえ、認知症患者が抱えている思いに寄り添うことも大切です。若年性認知症の男性Bさんは、仕事中に失認症状が現れ、退職を余儀なくされました。認知症を自覚しています。
ある時Bさんと、Bさんのご家族について話していた時です。それまで息子さんのことや、お孫さんのことなどについて談笑していたのですが、ふと表情が暗くなり一言、「どうしてこうなってしまったんだろうか…」とBさん。働くこともできず、家族の世話になり、一家の長としてのプライドは打ち砕かれています。
普段は陽気に振る舞うBさんですが、心には暗く辛いものを抱えていました。認知症をないことにはできませんし、「大丈夫ですよ」なんて気休めはとても言えません。ですが、Bさんがどんな状態でもご家族はBさんを慕い介護しておられることや、私たち施設の者も何とかBさんに余生を謳歌してもらいたいことを伝えると、「ありがとう」といつものBさんの笑顔に戻っていました。
男性利用者は、一家の大黒柱としての役目を果たせていないという負い目を、どこかで感じ、家族に対し申し訳なく思い、自分自身を情けなく思い、でもどうすることもできない心の葛藤を抱えている方が多い様に思います。その葛藤を受け止め、ありのままで受け入れられる安心感と目的があれば、自分の居場所を見つけることができ、安定した介護を提供していくことができるのではないでしょうか。