この記事は家で母親を介護している40代の男性に書いていただきました。
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家で認知症の母親の介護をしています。ここ最近のことなのですが、徐々に日常生活を送るうえで自分でできないことが出てきました。
その中の一つが上手く服を着ることができなくなったことです。これは認知症の症状によくある失行(着衣失行)という症状です。着衣失行は脳の頭頂葉(右半球)を原因とする症状です。
母親はパジャマから普段着へ、お風呂の後にパジャマを着る、ということは理解しているのですが、なかなか自分だけでは上手に服を着ることが出来ません。下着やズボンは履くことができるのですが、特に上着を上手に着ることが出来ません。
母親が着ることが出来ない上着は、前がボタンで留めないといけない前開きの服です。片方の手をスルっと腕を通しても、後ろから服を回して反対の腕で残りの服を上手に掴むことが出来ません。どうしても背中で服がクルクルと雑巾を絞った状態になってしまうのです。
また別の時には、前開きの服に両方の腕を通してはいるのですが、前後ろが反対で本人も何をしていいのか分からなくなっています。パジャマなどの比較的伸縮性のある服であればいいのですが、前開きのオシャレ着だったなら破けてしまいます。
介護をするものとして
介護をしている私は、介護福祉士でありケアマネジャーとして業務を行った経験があります。
私は何度もこのようなことを施設で見てきたので、認知症の方々に対してどんな声をかけたらよいのか、どのように手助けしたらよいのかは分かっているつもりでしたが、いざ母親がそうなると施設のようにはいきません。
「こんなことも出来へんのか」
と心の中では思いましたが、仕方がありません。それが認知症というものです。ゆっくりと母親のそばで声をかけたり、手助けして、自分でできることはしてもらっています。
どうしても介護する側は時間がないとかの理由で全てを手伝ってしまいがちですが、そうするとどんどん残存機能が落ちてきてしまうので、時間がかかっても焦らせる言葉をかけないで時には見守ることも大切です。
その他の失行症状
洗濯をする時には洗剤を入れることはできますが、洗濯機の使用方法が分からない、あるいは料理に関しても料理の段取りが出来ないので自分一人では料理ができない、といった症状が日常生活の中でぽつぽつと出始めます。
何をするにも手順があり、料理であれば野菜を冷蔵庫から取り出す→洗う→包丁を取り出して切る→味を付ける→フライパンを用意して焼く…という一連の動作が集合したものですが、1つ1つの動作は出来るが、これを繋げて一つの目的を達成することが出来ない。
これは洗濯でも同じです。洗濯の場合には最終的には干して畳むまでの一連の動作が必要ですが、母はもちろん出来ません。これは「観念失行」と呼ばれています。着衣失行が右半球の頭頂葉の障害であるのに対して、観念失行は左半球の頭頂葉の障害です。
認知症のサインを見逃さない
今まで自分一人で出来ていたことが、いつのまにか出来なくなっている、そんなことが認知症を疑うサインの一つとなります。
日常生活の中でふと変だなぁと気づいたことがあれば、認知症検査あるいは専門家の意見を聞いてみるのが認知症ケアの第一歩といっても過言ではありません。