この記事は母親を介護している40代の女性に書いていただきました。
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私の母(80歳)は認知症(要介護5)とタバコ病(タバコが原因で起きる慢性気管支炎やと肺気腫)を同時に発症しています。現在はほぼ一日寝たきりで,在宅看護,訪問診療を受け,在宅酸素も導入しています。
私が母を全面介護する以前は,父(83歳)が一年間「老老介護」で母(当時要介護1)の面倒を見ていました。そんな母に一度だけ父が「死ね」と言ったことがあり,介護で心身ともに疲弊しているのが分かりました。もちろん介護サービスも受けていましたが,父の体力・気力に限界がきてしまい,二人の生活が回らなくなっていたというのが現実です。
母は,昔から会話が少なく頑固な性格でしたが,私が同居していた3年くらい前からは,家族とのコミュニケーションが激減し,誰かと談笑することもテレビを観て笑うこともなくなりました。この時から認知症の症状が出ていたと思うのですが、当時の私たち家族は全く気付きませんでした。
母の認知症の症状
認知症の診断をきちんと受けようしたきっかけは,料理でした。ある日,母が作った鍋料理には,野菜の合間にビニールの袋ごとの糸こんにゃくやケースごとの豆腐が煮込んでありました。それでも母は「食べよう」と言ったのです。母の認知症を覚悟せざるを得ない瞬間でした。
また,「洗濯物を取り込み忘れた!」と慌てて夜中に庭に飛び出した母が,その場で自分が何しに来たのかわからなくなり,その状況すらもその場で忘れてしまったことがあり、病院受診の決定打となりました。
大学病院でアルツハイマー型認知症と診断されてからは,母(要介護1)の症状は悪化するばかりでした。母に認知症という自覚は当然なかったので,薬や通院を一切受け入れてくれなかったのです。
そんな状況の中,私自身が娘の進学関係などで実家を離れざるを得なくなり,父一人で母をみることになったのですが、母の本能的行動は加速を増すばかりでした。例えば,まぐろの爆買い。訪問業者が認知症の母に巧みにつけ込み,1個何千円もするまぐろのブロックを売りつけ,母はそれを何個も冷蔵庫の奥に隠していたのだそうです。もちろん,家族のためと母は感じていたのでしょうが,常識の範囲はとうに超えた買い物でした。
そして,あり得ないほどの小銭の山。よく「お札で買い物をし始めたら認知症を疑え」と言いますが,母はまさにその典型的な例でした。計算できなくなっていたのです。しかも,乗り慣れた自転車は転んでばかりの危険運転。何度も父に止められ,鍵を回収されると自転車ごと破壊して乗ろうとしたそうです。
認知症によりタバコを爆買い
しかし,何といっても,認知症が母に与えた致命傷は,タバコでした。もともとヘビースモーカーだった母は,認知症が重くなる中,タバコも爆買いしていたのです。
どんどんタバコの喫煙本数は増え,父にタバコを取り上げられると,パジャマのままでもコンビニまで買いに行きました。しかも、ベッドの周りをタバコで焦がしていたそうです。よく火災にならなかったと思うのですが,当然,禁煙をすすめる父とは激しい口論になり,それでもタバコを吸い続けた母は重度のタバコ病になりました。
その結果、入院するはめになったのですが、2か月ぶりに合った母は骨と皮になっていました。低酸素・低栄養・脱水のために点滴を受けていました。母の肺にはほとんど正常な細胞がなく,次に肺炎になったら2日もたないと医師に告げられました。
父が作った食事を食べなくなっていたのは,タバコ病のために肺が巨大化して消化器官を圧迫しているため,食欲がでないからだとも聞きました。
この夏は越えられないと医師から「宣告」されたときには,私の中に覚悟が生まれました。「今,母のもとにいなければ自分自身が一生後悔するだろう」と思ったのです。私はせめて母に残された時間だけでも母の介護に全力を注ごうと決めました。夫や子に理解してもらい,単独実家に戻り,転職したばかりの仕事も退職して介護に専念しました。
そして,介護を始めてから2ヶ月たった現在。母は奇跡的に夏を乗り越え,20kg程度しかない体でベッドの上で生活しています。口からの摂取量は水分で一日400cc、メイバランス(栄養剤)4本でつないでいる命です。介護の初めの頃は,私が「食べて」と言うと突然叫ぶこともありましたが,今ではなんとか食べようと努力してくれています。
介護の困難な壁を痛感する毎日です。母はほとんどベットで横になっているのですが,ポツリと「ありがとう」と言ってくれることがあり、私に元気をくれます。
また、ふと正常な自分に戻ったときには,「私はこのまま家で死にたいけど,なんで死ねないんだろう。まだ私に何か役目があるんだろうけど,それが何だかわからないから考える。」とまで語ってくれたことがあり、嬉しくなりました。
「認知症だから」、「認知症のせいで」と、つい色々判断しがちですが、「今この瞬間の母」がすべてなのだと思っています。私が生まれた時,生きるためのすべてを与えてくれたのが,今ベッドで寝ているこの認知症の母です。私にやってくれたことを、今は私がシンプルにお返ししているだけです。時間は限られているとは思いますが,生きているうちに親孝行したいと思います。
[参考記事]
「タバコを吸う(喫煙)と認知症のリスクを高める」