養護老人ホームに入居しているAさんは70代、女性。アルツハイマー型認知症と診断されていました。歩行や排泄、食事は自立しています。もともとの性格は自分のことを積極的に話すような方ではなく、普段は穏やかで不満や愚痴などは漏らさない方でした。
しかし、不満を無視できるわけではなく、不満を自分の中で溜めやすく昇華しにくい性格でした。
Aさんが入居している養護老人ホームでは月何回か、近隣のコンビニの店員たちが多種多様の商品を持ってきて、施設内で販売してくれます。
アルツハイマー型認知症が進むとお金の計算や「何円」と言われても悩んでしまう方は少なくありませんが、Aさんも会計時にどの小銭を出すと商品の合計になるのかが分からず悩んでいました。そういった時に「なんで自分はわからないのだろう。」という不安に苛まれ感情失禁になりやすかったです。
感情失禁と感情の表出の違い
感情失禁と感情の表出は大きく異なります。感情失禁は感情のコントロールが効かず、情動が抑えられずに感じたものを感じたまま表出することです。
感情の表出はコントロールが効きます。
「悲しくてもここで泣いてはいけない。」
「怒りたいけど怒らないようにしよう。」
など感情を表出する際にコントロールすることができます。
感情失禁は自分では抑えられないものが出てしまっているので、家族など周りも戸惑うことが多いです。しかし、感じたことを感じたままストレートに表現してくれるというのは人の個性を隠してない、その人を知るには必要な情報であると思います。
感情失禁した際は
「否定をしない。」
「認知症高齢者と一緒に慌てない。」
ということが必要だと感じます。
普段の認知高齢者に対しては世界観や感情を共有してこそ信頼関係が築けるのだと思いますが、感情失禁の際にはそういった感情の共有をするのは不適切かと思います。
理由としては、抑えきれない感情に共感してしまうと自分の感情や世界観ばかりに意識が行ってしまい、感情失禁から抜け出しにくくなるためです。
まず、感情失禁から抜け出してもらうために、安心して落ち着いてもらう必要があります。そのためには介護者が
「ゆっくり背中をさする。」
「ゆっくりと優しい喋りをする。」
など相手の感情の爆発に合わせずに、相手に落ち着いてもらえるような対応をしてください。
Aさんの感情失禁を防ぐために行ったこと
Aさんに感情失禁を起こさせないために以下のような行動を取りました。Aさんが買い物する際は何が欲しいかをまず尋ねます。それから財布にどのくらい金銭があるのかを確認します。欲しい品物の合計額を私が先に計算して、足りるのか足りないのかを確認した上で、足りなかった場合は
「足りないのでもう少し安い商品も見てみますか?」
「まだ在庫があるので次回買いませんか」
など声掛けをします。
商品を選んでレジで精算する際は
「小銭が多くて落としてしまったら大変なので私の掌に乗せてください。」と促すことで、自然に「あと何円足りません。」など言えるので、Aさんは感情失禁もなく買い物ができることが多くなりました。
このように介護者は認知症高齢者に対して、事前に起こりそうなことを予防することが一番大事だと私は感じます。しかも、認知症高齢者の自信を失わせるような「何でも介護者がやってしまう」ということを避けながらです。
先ほども買い物の件も、職員がお店の人にお金を渡せば済む話ですが、そうすると本人の自信が余計に無くなっていきます。誰かに手助けをしてもらえば本人の力で達成できることをサポートすることが非常に重要なのだと感じます。Aさんが「自分でできた。」という喜びや自信を失わないことを意識しながらサポートをしていました。