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お尻を触る迷惑行為を繰り返す前頭側頭型認知症の介護の実例

 

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原因不明で特効薬がない認知症

 認知症といえば誰しもが思いつくのはアルツハイマーですが、意外と知られていない前頭側頭型の認知症は他のタイプと較べ患者数も少なく、私の勤務する施設にも少数しかいません。

 前頭側頭型の新規の利用者が来ると聞くと職員同士でも顔を見合わせてしまうほどの、悪い言い方をすると問題行動の多い認知症です。

 私の施設にいるKさん(70代男性)は普段の生活は記憶障害もなく会話も普通にでき、ぱっと見では認知症があるように見えないのですが、男女かまわず行う痴漢行為や鼻をほじったり、痰を吐いたり、急に大きな声を出して歌い出したりという、健常ならばしないような常識を外れた、他人に迷惑になるような行為を繰り返してしまいます。

私が教科書で勉強してきた、

という言い方がぴったりの方でした。

Kさんの前頭側頭型認知症

 Kさんの施設での過ごし方は、朝はきちんとみんなに挨拶をし、体操したり食事を食べたり、入浴したり、レクリエーション活動を楽しんだりとADL(日常生活動作)的には全く問題ありません。

 しかしその合間に以下のような問題行動を起こします。
〇挨拶しながら女性職員の胸やおしりを触る

〇体操しながらその辺に痰やつばを吐き床を汚してしまう

〇食事の際、こっそり人のお皿から食べ物を取って食べてしまう

〇入浴前に全裸になった時にそこら中に放尿する

 他の利用者様や一部の職員たちが眉をしかめるような行動が目立ち、ついには他の利用者様たちから同じテーブルに着くことすら拒否させるようになってしまいました。

 毎度Kさんに止めていただくようにお願いはするものの、もうやらないと言った直後に同じことを繰り返すという状態でした。

 このままでは他の方の症状に影響するという懸念から施設ではKさんの席だけ他の方の視界に入りづらい位置に置くこととなりました。

 とても悲しそうな表情でみんなと離れた席に座るKさんを見ると心苦しくなることも多いですが、集団生活していく上では仕方がないことです。

できるだけ良い面を見ること

 みんなに避難されたり、席を隔離されたりということでとても悲しそうな表情を浮かべていたKさんですが、見方を変えればすべてが問題行動しかしない訳ではなく、基本的には人なつこくて、優しい面もたくさんあるので、そのことを重視しました。

 Kさんが失禁してしまったときに職員が排泄の介助に入ると必ずお礼を言ってくださいますし、職員が荷物を持っていると手伝って運んでくれたりもしてくれます。
(その際痴漢行為を働くこともありますが・・・・)

 上司と相談しつつ、やってしまうことを止めるのも前頭側頭型の認知症には逆効果であるということを踏まえ、いい部分を周りの人に知っていただくことで、周りの受け入れ体制を少しでも作れたらという意見にたどり着きました。

実際に行っているケア内容

 そして我々が実際にKさんに行っているケアの例として、
〇まずは職員が笑顔で明るくKさんに話しかけることで、「あの人は仲間外れにされているが普通な人」という認識を周りの人に持ってもらうようにすること

〇レクリエーション活動などで集中している時間は問題行動も減るので積極的にみんなのところへ誘い、一緒に楽しんでもらうこと

〇計算問題や英語の翻訳などをやってもらい、それを周りの人たちが見ることで、Kさんにダメなところもあるけれど良いところもあるということを知ってもらうこと。

 Kさんのバックグラウンドとして数々の仕事上でのプロジェクトで海外を渡り歩き、語学も堪能であり、理数系のスペシャリストであるということが事前に分かっていました。

 そうすることでKさんがいるだけで嫌な表情をしていた人たちも数ヶ月経ち、「あの人はああいう人だけど、頭がいいね」とか噂されたり、レクリエーション活動の時などに周りの人から話しかけてくれるようになり、Kさんも他の利用者さんも同じ空間で時間を過ごすことができるようになってきました。

 問題行動とされている不潔行為や痴漢行為などは全く改善されませんが、施設内で流れていた嫌な空気は少しずつ改善傾向にあると感じています。

[参考記事]
「前頭側頭型認知症ってどんな症状があるの?」

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