介護老人保健施設へ入所された70歳代のCさん(男性)は60代で前頭側頭型認知症の診断を受けています。60代で認知症とは早いと思われるかもしれませんが、前頭側頭型認知症は50代の若い時期から起こります。
自宅での転倒により骨折をされて治療を受けたあと、ADL(日常生活動作)の練習を行うために入所されました。しかし、言語障害があり自分の思いがなかなか表出できず、さらに常同行動や易怒性が強く、なかなかADLの練習が進みませんでした(言語障害は前頭側頭型認知症の症状によるものです)。
介護やリハビリへの抵抗が出現
最初は4人部屋に入り生活されておられましたが、入所直後から同室の方を過剰に気にされたり、物音に過敏に反応される様子が見られました。
介護には抵抗し、時には激しく怒るなどといった行動が見られました。スタッフの問いかけにも、「わからん」と繰り返し発言するなど常同言語が見られ、そのままスタッフが問いかけを続けると怒り始めるといったことが繰り返されました。
そのため、ADL練習はなかなか進まず、日常生活での介助量もなかなか減ることはありませんでした。
攻撃的な態度の原因をスタッフで検討
本人やご家族は自宅での生活を望んでおりましたが、重度の身体的な介護は困難であるということで、できるだけ早い段階でADL練習や活動性の向上を行っていく必要がありました。
そこで、「なぜCさんが攻撃的な態度をとるのか」を言語で自分の意思をうまく伝えることができないCさんの思いをしっかり考えて、スタッフの対応や環境の調整で落ち着いていただくことができないか検討をしていきました。
攻撃的な態度の背景を理解して実践
話し合いで出た意見の中で、食事準備やトイレ誘導をする時間といったスタッフや利用者さんが慌ただしくする時間帯にCさんが攻撃的な態度をとりやすい傾向があることが分かりました。
また、人の声が聞こえたり、人の出入りが頻繁に目に入ったりすることで落ち着きがなくなり不快感や不安感を感じられているのではないかという意見が出てきました。
そこで、ご家族などにも了承をしていただき、一人部屋にしていただくなど刺激が少ない環境を設定させていただきました。
また、作業療法士の意見を採用し、Cさんが以前行われていた日曜大工の趣味を生かしてもらうことにしました。木材にヤスリをかけたり、ニスを塗るといった比較的単調な動作は問題なく可能で、常同行動をうまく利用し、集中して取り組んでいただくことが可能ということが分かりました。
そこで、慌ただしい時間帯にはそのような作業を行っていただくことで、周囲の環境を意識せず、集中していただくことで精神的な安定を目指すことにしました。
攻撃的な態度が減少してADLも向上
一人部屋の環境はすぐに慣れ、周りのことを気にすることもなくマイペースに過ごされました。その結果、職員の声かけなどにも応じてくださるようになりました。職員も対応の仕方に気をつけながら接することで、Cさんも落ち着いてADL練習を行ってくれるようになりました。日中は日曜大工に取り組まれ、活動的な生活を送られるようになり、無事にご自宅に帰ることができました。
前頭側頭型認知症の症状により、不安感や不快感が攻撃的な態度となって表出されていたCさんでしたが、しっかりと背景にある思いを理解し、個人の歴史をひもときながら接していく重要性を改めて知ることができた経験でした。
[参考記事]
「前頭側頭型認知症ってどんな症状があるの?」