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オムツ交換の拒否が強い認知症の人への対応。言葉を変えたら態度に変化

 

 普段は明るくニコニコなMさん(92歳女性)。Mさんは、1分前のことも忘れてしまうほど、かなり認知症の進行した人です。歩くことが出来ず日中は車イスで過ごすMさんですが、いつも笑顔を絶やさずとても元気。非常に気さくな性格で介護職員や他の利用者にも積極的に話しかけ、我が施設のムードメーカー的存在です。

 そんなMさんなので、職員にも利用者たちにもとても人気があります。レクレーションの時にはいつもMさんを中心に笑いが起き、みんなを和ませてくれます。

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1.オムツ交換を激しく拒否

 しかし、Mさんの態度が豹変するのがオムツ交換の時。それまでは笑いながら話しをしていたMさんが、脱衣の瞬間に顔つきが変わり、途端に激しく拒否をし始めます。

 「なにするの!こら!やめなさい!」と、怒鳴りながら介護職員の腕を振り払い、抵抗をします。時には噛み付いてくることもあるので、可能な限り職員が2人掛かりでオムツ交換を行います。1人がMさんの体や腕を押さえて安全を確保し、そのあいだにもう1人が素早くオムツ交換や陰部洗浄、清拭をするのです。

 Mさんにしてみれば、体を押さえられ無理やり嫌なことをされているのも同然で、憤りや憎しみの気持ちが抑えられないのでしょう。「あんた達、なんて酷い人だ。この人でなし!」などの言葉を職員へ浴びせてきます。

 職員が2人掛かりで行える時はまだいいのですが、どうしても人員が足らず1人で行わなければいけないこともあり、そんな時は本当に大変。Mさんからの攻撃をかわしながら1人でオムツ交換を行うのはお互い非常に危険が伴いますし、実際、Mさんの暴力を避けられず引っ掻き傷やアザが出来てしまう職員もいました。

 オムツ交換が終われば、Mさんの態度も一変。ついさっきまでの戦争のような時間を忘れ、再びニコニコ笑いながら「お姉さん、来てくれてありがとう!」などと言うので、どうにも憎めないMさんなのです。

 とは言え、オムツ交換のたびにこのように暴れてしまう状況では、Mさんがいつケガをしてもおかしくありません。Mさんのためにも介護職員のためにも、何か対策を立てなければ…ということになりました。

2.オムツ替え時の対応

 Mさんがこれほどオムツ替えを嫌がるのは、他人に体を触られるのが嫌、怖い、という本能的な理由だと思われました。抵抗をするMさんに対し、いつも体を押さえて無理やりオムツ交換をしているわけですから、オムツ交換に恐怖を感じるのはMさんにしてみれば当然のことですね。

 もちろん、陰臀部を清潔に保つことはとても大切なことです。拒否をされたからと、そのまま放っておくわけにも行きません。

 そこで、オムツ交換時のMさんの恐怖感や嫌悪感を少しでも取り除くため、最初はMさんと特に仲の良い職員が一緒に付いて、Mさんと世間話をしながらオムツ交換を行うことを試みてみました。

 Mさんはその職員とのおしゃべりが楽しいようで笑顔で話をしていましたが、やはり他の職員が衣類を脱がそうとするとハッとした顔をして抵抗する素振りを見せました。

 すかさず話し相手の職員が「ごめんなさいねMさん、すぐ終わりますからね、ちょっとだけ我慢してくださいね」と、優しく話しかけます。Mさんは「嫌だ嫌だ、こんなことやめてよ」と返しますが、「そうですよね、嫌ですよね。本当にごめんなさい。ゆっくりやさしくやりますからね。」と、Mさんへの共感の言葉と、「ゆっくりやさしく」というMさんを安心させる言葉を掛けました。

 するとMさんは、「痛いのは嫌だよ。早く終わらせてよ。」と言いながらも、職員に強く抵抗することなくオムツ交換を受け入れてくれました。

 この一件があって以来、職員が丁寧に言葉掛けを行うことでMさんの不安を取り除き、穏便にオムツ交換が出来るようになりました。

3.最後に

 Mさんとのこの一件は、介護の仕事をしていく上で、人対人のコミュニケーションが何より大切だと感じさせられた事例でした。

 職員が相手の立場に立って言葉掛けをすれば、相手にも必ず通じるものがあります。認知症の人は少なからず不安や恐怖を感じており、周りへの警戒心がとても強いです。双方で良好な関係を築くためには、まず利用者に安心してもらうことが大前提。その前提なくしては信頼も生まれません。

 他にも、接し方を変えただけで利用者との関係が改善された例は多く、利用者とのコミュニケーションは職員の教育にとって欠かせないテーマだと実感しています。

[参考記事]
「認知症高齢者の失禁・失便を見つけた時の対応。排尿や排便間隔を分析」

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