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デイサービスを拒否する認知症の人への対応。信頼関係を築くのが先決

 

 Aさん(80代、男性)がアルツハイマー型認知症と診断された当初、介護者である妻がストレス等が原因なのかは判然としませんが、脳梗塞を発症した経緯があり、1日でも早い介護サービス利用に奥様をつなげました。結果「要支援2」の認定を受け週2回デイサービスを利用開始しました。

 その頃よりAさんの猜疑心が強くなり、「外で誰かと合っているんだろ」など暴言を吐くことが多くなりました。暴力行為はありませんでしたが、妻の精神的負担が大きくなってきました。妻の担当するケアマネージャー(以下担当ケアマネ)に相談し、「認知症に詳しいケアマネがいますので紹介しますね」と紹介されたのが私(ケアマネ)とAさん夫婦との関わりの開始でした。

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・なんの病気も無いのに、なぜデイに、と憤慨

 Aさんは数年前に医療機関で認知症の診断を受けました。特別大きな問題はなく過ごしていましたが、妻が介護サービスを利用するようになってから、中核症状である見当識障害の影響で今現在の時間や今いる場所が分からなくなってしまったり、尿・便失禁、暴言などが出現してきました。認知症を診断された際、医療機関の主治医より介護申請を勧められ、申請はしていました。

 更新申請も定期的にされており、「要介護2」の認定を受けていました。その際に担当していたケアマネからAさんに対してデイサービスの利用を勧めらましたが、利用初日から拒否が見られました。

 Aさん自身は「なんの病気もないのに、なぜこんなところに行かなければならないんだ」と憤慨したそうです。その際私は、これは介護計画を作るケアマネージメント側が「業務効率化」という都合による「こういった症状の場合はデイサービスの利用を」という紋切り型の対応に終始している事も症状の悪化に拍車をかけている部分もあるのではないかと推測しました。つまり、介護側とAさん本人の信頼関係が築けていないと考えたのです。

・信頼関係を築くのが先決

 そのため、私はAさんとの信頼関係を築くことを先決に考えました。難聴があるため、奥さんと私が会話しているのは聞こえないであろうと推測し、その都度笑顔で「こういう話をしてますよ」とAさんに伝え、「そうか、そうか」とAさんにも笑顔が見られるようになりました。

 そしてサービス利用の件はデイサービスという言葉を使用せずに、ある方法を取りました。本人が趣味にしていた海釣りをデイサービス施設に関連付け、デイサービス施設がAさんの馴染みの漁港に近かったこともあって「海(馴染みの漁港)の見える場所に行ってみませんか?」とさそってみたのです。

 すると「行ってみるかな」と同意をしてもらえたので、早速調整を開始しました。その際に先方のデイサービスには事情を話して、Aさん本人は「デイサービスという介護施設」に来ているというより「馴染みの漁港が見える場所」に来ていると思っている事を念頭に置いた対応をしてもらえるよう依頼しました。後に、これが奏功することになります。

 サービス利用当初こそ1人でデイサービス施設を出ていくことがあったものの、職員が寄り添いAさんの意思を尊重しながら対応していくうちに、外に出ていくことはなくなりました。

 入浴も最初は拒否していたところ「Aさんのためにお風呂入れました」と話すと、「そうか。悪いね」と言って入浴してもらえるようになりました。ただ、汚れた下着を入浴後着用しようとするので常に新しい下着を用意する工夫をしてもらいました。

まとめ

 デイサービス利用は2年以上経過しているのですが、現在も継続して通所してくれています。当初は週2回から利用開始しましたが、現在は週5回通所し、妻のレスパイトケア(要介護者を介護する、家族などの息抜きケア)にもつながっています。

 今Aさんは「施設には見守りの仕事に来ている」と思っており、外に出ようとする利用者がいれば、職員にすぐに知らせてくれるようです。職員も「いつも見守りをしてもらって助かっています」と声をかけ、Aさんにも笑顔がでているようです。

 認知症という疾患をもつ人でも人として同じように生活する権利を有しているわけであり、その人の尊厳を守りながら関わっていくことが改めて痛感した事例でした。

[参考記事]
「デイサービスを拒否する認知症の会計士が通所するようになった理由」

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