Aさん(男性80代、脳梗塞後遺症(左麻痺))は数年前に脳梗塞を発症し、病院に入院しました。
発見が早かったのでスムーズに治療ができ、さらにリハビリもすぐに開始していたので身体状況も改善し、左に軽い麻痺が残る程度で杖歩行まで回復して退院しました。
もともと自宅ではソファーに横になってテレビを観ている生活を送っていたので、全く刺激のない生活でした。ですので病院のソーシャルワーカーから介護保険を申請し、介護サービスの利用することを勧められ、申請を行い、「要介護1」での認定を受け、ケアマネとして私が関わることになりました。
初回訪問でアセスメントを行い、本人には「困ったことは何かありませんか?」と質問すると「何も困っていない」と。
その後、妻と面接を別室で行いました。「いつも家でゴロゴロしているだけで入院前の生活と変わらない。せっかくリハビリしてもらって、よくなって帰ってきたのに、このままだと歩けなくなるのではないかと心配です」と不安を漏らされていました。
また「感情の波が激しくなって、とにかくニコニコしているかと思ったら突然怒り出したりするんです。あと、まだら認知症とでも言うのですか、出来ることと出来ない事の差も激しいです」とも話してくださり、大変ご不安な様でした。
特にこの中の感情失禁、まだら認知症、これらはいずれも脳血管性認知症の症状であり、Aさんは脳梗塞の発症後に脳血管性認知症を発症しているのではないかという判断を、私はしました。
そのため、本人には外出して下肢の筋力を維持することと、妻以外の他者との対人交流が必要であると判断、妻にデイサービスの利用を提案し、「是非お願いします」との返答がありました。
「ただ、不安なのは、本人が行ってくれるかどうか。頑固で退職後はほとんど家ですごしていたので」との事でした。なお、仕事は会計士をしていたと妻より事前情報がありました。
そのような話しがあったため、再度本人と面接し、先ほどのデイサービスの件を勧めたところ案の定「行かない。めんどうくさい」との返答でした。
そのため「●●さん、会計士をされていたのですね。今回紹介するデイサービスが、決算に困っているみたいなのです。そのために手伝ってもらえませんか?」と私より提案すると「そうなのか?それなら仕方がない。手伝ってやるか」とデイサービスに通所することを了解してもらえました。
「なかなかいい経営状態じゃないか」
通所してもらうデイサービスをどこの事業所にするか迷いましたが、小規模で(10名)、比較的男性が多い曜日にして調整を行いました。
妻よりは「もう計算なんかできないのに…」と不安の声がありましたが、「そこは実際に通所し対応することにしましょう」「相手もプロなので対処方法を考えてくれると思いますよ」と話し、妻も多少ながらホッとした様子でした。
利用日初日。初めは会ったこともない通所者に戸惑ったようですが、「早速、決算、手伝ってもらえますか?」と本人に話し、「そうかそうか。やるか!」と意気揚々でした。
そこで用意したのは、掛け算のドリル。すると本人「なかなかいい経営状態じゃないか?」と嬉しそうに話されていました。実際ドリルは白紙のままで、特に決算数字が書かれているような感じではありませんでしたし、Aさんからも特に記入・書字などはありませんでしたが、スタッフより「ありがとうございます。助かりました。また手伝ってもらいのですが大丈夫ですか?」とお伝えすると「もちろん!任せてくれ」と返答ありました。
更にスタッフより「お礼と言ってはなんですが、景色のいいお風呂に入っていきませんか」と話したところ「そうか、悪いね」と入浴介入もスムーズにできました。
ただ自宅に戻れば何をしてきたか忘れて帰宅するのですが、「楽しかった」とは話されたようです。
今後の対応としては、デイサービスの利用回数を増やすことを本人の様子を見ながら検討すること。
毎回の迎えでは「また決算お願いできますか?」「忙しいのに仕方がないな」と送迎バスにも問題なく乗車してくれています。
このように本人に「役割」を与えることによって、プライドを傷つけたり、無理やり自宅から引き出すことなく、スムーズにいくことができるので、ケアマネさんは参考にしてもらえれば幸いです。
[参考記事]
「デイサービスを使うと薬の効果が高くなるのか」
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