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認知症の人の「安心や安全」を脅かす記憶は保たれやすい

 

 この記事では「認知症の人は普段のことは良く忘れるのに、安心・安全を脅かす記憶は保たれやすい事例」をお話します。これは人に対してだけではなく、これからお話しするリハビリに関しても同じです。

 認知症を発症した方の主症状として、程度に違いはあるものの短期記憶障害は常にみられると言っても過言ではないと思います。ですが、直近の記憶であっても全てを忘れているわけではありません。名前は忘れていても定期的に会う人の顔は覚えていることが多く、昨日久しぶりに来た家族のことよりも週3日会うヘルパーのことを覚えている、なんてこともしばしばです。

 通所介護の利用を通して、80歳代女性の認知症を呈した当利用者(以下A氏)への対応として、結果的に失敗だった経験を共有し、今後の皆さんの認知症高齢者への対応の一助となれば幸いです。

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当事業所に求められるA氏への支援方法

 デイサービスで求められる役割を大きく分けると「レスパイト(主介護者の介護負担軽減)」と「自立支援(リハビリを通して本人の出来ることを増やしていく)」の二つが挙げられます。

 レスパイト型ではレクリエーション等が中心となり、自立支援は最近よく耳にするリハビリ特化型のデイサービスとなり、リハビリが利用時間の主となります。当事業所の場合、この「自立支援」の役割を担っているため、リハビリ中心の利用となります。

 そのため、A氏に関してもリハビリを通して少しでも自分で行えることを維持・向上することが利用目的となっていました。A氏の課題として、円背(猫背)があることで屋内の歩きや家事動作に支障を来たしていました。そこで、姿勢改善のための運動方法として壁を使用し、自身の力とセラピストの補助により壁にもたれかかりながら背筋を伸ばす練習を行っていました。

 自宅での運動としても反復して促していましたが、短期記憶障害の影響もあり口頭ではもちろん、資料をお渡ししての促しに関しても、資料を渡されたこと自体を忘れてしまっている状況でした。そこで、自宅での運動を促す方法を検討しつつもデイサービスにてルーチン的に姿勢改善の運動を行っていくことにしました。

「安心・安全」を脅かす記憶は保たれやすい

 練習を始めて数日経ち、運動方法にも慣れてきていた頃でした。日頃行っていた運動場所(出入り口近くの壁)を別の利用者が同じ姿勢改善目的のために使用されていたため、職員が付き添い、別の場所でA氏の運動を行うことにしました。

 しかし、A氏のように短期記憶障害症状のある認知症高齢者の場合、環境の変化に対しても敏感に捉えておく必要がありました。環境の変化により不安を感じたA氏は、「足が滑って転びそう」と不安を言われました。すぐに職員により確認しましたが、動作も安定していたため、念のため足下を軽く止めて(滑るのを防ぐ程度)運動を継続しようとしたところ、A氏が急に手を別場所に伸ばし、体勢を崩してしまいました。

 運動の性質上バランスを崩すことも想定しながら行っていたため、すぐに補助することで転倒に至ることはありませんでしたが、恐怖心を感じたご様子だったので椅子に座って休憩することにしました。その後も「危なかったね。怖かった。」と言われていたため、今回はこの運動を休止し、別プログラムに変更して対応しました。

 後日、いつもであれば前回利用時に行ったリハビリ内容はほとんど忘れてしまうA氏が、前回転倒しそうになった姿勢改善の運動について覚えており、その後も利用の度に「怖かった」と話されるようになってしまっていました。更に、バランスを崩した日以降同じ運動方法では受け入れが悪くなってしまいました。

今後の対応策

 恐怖感や不安など「安心・安全」を脅かすシチュエーションを予め想定し、排除することに努めていくことが重要だと思います。リハビリの特性上、「できないこと」を「できるようになる」ために練習していくことに関して、100%安全な方法をとることは難しいと考えます。

 しかし、環境面の調整(今回で言えば壁を使用している他利用者が終わるまで待つ、他の運動を先にしておくなど)の対応により、排除できる不安要素もあります。

 今回は運動のルーチン化を重要視し、結果的にその運動の継続が難しい状況になってしまいました。短期的な運動方法・効果に捉われず、状況に合わせて運動方法やタイミングを検討し、長期的な運動効果を求めていくことが利用者支援の考え方として重要だということを学ぶことができました。

[参考記事]
「前頭側頭型認知症による万引き(盗み)への対応。毎日同じ時間に万引き」

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