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認知症の人に対する「排泄のプライバシー」をどう守るか

 

 今回紹介するのは特別養護老人ホームで暮らすTさん。中等度の認知症のある70代男性です。Tさんは日中、歩行器で移動しており立位時、移動時には見守りが必要です。

 一度見守りがないところで自ら立位を取り、転倒した経過があります。それ以降はTさんが立ち上がった時には職員が声をかけるようにしていました。

 普段は温厚なTさんですが、夜間の排泄に苛立ちを感じているようでした。

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昼間は職員と一緒にお手洗いへ

 立位時にふらつきと転倒の傾向があるTさんの排泄には見守りが必要です。日中は定時にトイレへ誘導する他、自ら「トイレに行きたい」と職員に話してくださいます。その際に拒否の様子はなく、職員の見守りでスムーズに排泄ができていました。

 ところが夜間の排泄の時になると、なかなか職員の言葉に耳を傾けてくれないことが多いのです。

「毎回毎回来なくていいよ!」

 Tさんは夜間はベッド横のポータブルトイレで排泄をしています。ベッドの足元にはセンサーマットが設置されており、排泄の際はセンサーマットのコールで職員が訪室し、排泄の見守りを行っています。

 ですがTさんは、排泄しようと思ったそのたびに職員が訪室するのをとても嫌がります。

 センサーマットが感知し職員が訪室すると「なんでおれがおしっこすようとすると毎回来る?来なくていい!」と怒り気味のことがよくありました。

 また足音に気づいてか、一人で立ち上がってズボンまで下ろしたのに職員が顔を出すとスッとベッドに戻り寝たふりをします。かなり勢い良くベッドに戻るので圧迫骨折の心配があります。また自分のタイミングで排泄ができなかった為に、結果としてベッド上で失禁してしまうことも度々ありました。

 Tさんは排泄の度に職員が来て、トイレに座るところを見られるのをとても嫌がっているようでした。

プライバシーを守りつつ見守りはできないのか?

 排泄という行為は個人の最大のプライバシーです。それが守られずストレスを感じるようになってしまったTさん。Tさんのプライバシーを守る為、排泄の際に近くで見守りをしないでいい方法はないのか。職員同士で話し合いが行われました。

 問題になるのはTさんは立位時にふらつきが見られるということです。

 そこで、ふらついた時の転倒防止策として、「ポータブルトイレ」「介助バー」「Tさんが時々使用する車椅子」をベッドの周りにコの字型セッティングすることにしました。Tさんが普段ベッドの昇り降りに使う場所です。

 ベッド周りにつかまる場所を多くしたことで、立ち上がった際によろけてもTさんが自分で体勢を立て直すことができるようにしました。それによって排泄を見られるのを嫌がるTさんのすぐ近くで見守りをしなくてもいいようにしました。

 Tさんはふらつきこそありますが、腕の力と瞬発力があります。転倒しそうになってもつかまるところがあれば、自分で体を支えられると普段の行動から読み取りコの字型のセッティングを考えました。

 そして、夜間にセンサーマットが感知したら職員は靴を脱いで抜き足差し足で部屋の前まで行きます。Tさんに職員が近くに来ていると悟られない為です。さらにTさんからは見えない角度で、遠方から見守りをすることで排泄に対するプライバシーの配慮をすることができます。

お互いにストレスがなくなった!

 Tさんの夜間の排泄に対して様々なアプローチをした結果、Tさんは職員の目を気にすることなく自分で排泄することができるようになりました。

 Tさんが夜間に排泄のことで不穏になることもなくなり、失禁の際の更衣や排泄のことで口論になることもなくなったため職員のストレスも軽減されました。

 排泄の際のプライバシーという問題が解決されたことで、Tさんと職員の関係も改善されたのです。

ちょっとした配慮でお互い気持ち良く

 普段、何気なく排泄介助をしているかもしれませんが排泄というのは個人の最大のプライバシーです。それを見られるということは抵抗があって当然なのです。

 介助に対して抵抗や拒否があるのは利用者さん、職員ともに気持ちのいいものではありません。

 認知症の利用者さんの行動や能力を分析し、いかにアプローチしていくか。そして自立の方法を考えることこそが利用者さんにとっても職員にとってもよりよい生活や関係性の構築につながるのです。

 職員がよく話し合い、情報交換をして環境を整える。それができれば、お互いに気持ちのいい毎日が送れるはずです。

[参考記事]
「若年性認知症の男性がタクティール(マッサージ)で笑顔が増えた訳」

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