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若年性認知症の男性がタクティール(マッサージ)で笑顔が増えた訳

 

 こちらで紹介させていただくのは特別養護老人ホームで暮らすTさん50代。比較的軽度の若年性認知症の男性です。これといって目立った周辺症状はありませんが、入所時から表情が硬く、塞ぎ込みがちで言葉でのコミュニケーションが取りづらい方した。奥さんと娘さんが面会に来てくださることが多かったですが表情が変わることはあまりありませんでした。

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まずはリラックスして

 表情が硬いTさんは体にも力が入っていることが多かったです。そこで、まずは少しでもリラックスしていただきたく、タクティールケアという手法を用いてマッサージを行うことを始めました。

タクティール・マッサージとは、スウェーデン発祥の緩和ケア療法。1960年代に看護師シーヴ・アーデビー(Siv Ardeby)[3]やグニッラ・ビルケスタッド(Gunilla Birkestad)[4]らによって考案されたマッサージ法。

 ツボや筋肉を刺激する各種マッサージ法とは異なり、優しい接触を継続的に行い、肌の触れ合いを通してオキシトシンというホルモンの分泌を促し、ストレスに関連するホルモンであるコルチゾールのレベルを低下させて、相手の不安な感情を取り除く効果を得るとされる。

ウイキペディアより引用

 「Tさん、最近寒くなってきましたね。温まるようにちょっと手をマッサージしてもいいですか?」返答はなかったので「失礼しますね。」と、指の付け根から末端へ指を一本づつ揉んでいきます。

 それからゆっくりと手のひらの内側から外側へ開くようにマッサージ。腕も手のひら全体で握るように揉んでいきます。皮下出血ができないよう皮膚の薄いところは引っ張ったり強く押さないように気をつけます。それを15分間行いました。

 最初こそ変化は何もなかったのですが、徐々に介護スタッフ全員で体に触れたり背中や肩もマッサージをしたりとスキンシップを取りました。すると時々ではありますが一言二言、声かけに答えてくれたり表情が和らぐ時がでてきました。

笑顔が増え、更に…

 介護スタッフ全員で関わりを続けた結果、話しかけに答えてくれることも多くなり、笑顔が増えてきました。他にも悲しい顔、怒った顔をしたりと表情が豊かになり、冗談を言ったりと会話もどんどん増えていきました。

 もともと自分の席で立ち上がることはあったTさんですが、表情が良くなってからは自分で歩き出そうとしたり歩行器や手引き歩行で歩けるようにもなりました。この変化にはご家族も驚かれていて「こんなに良くなって!」と喜びの言葉をいただきました。

家族と一緒にいたくて

 入所当初は言葉をあまり発せず硬い表情だったTさんですが、ご家族の話をする時やご家族が面会から帰られる時に泣きそうに顔を歪めるようになりました。話をしていると「寂しい」「家族が好き」と話してくださいます。住み慣れた我が家と家族から離れて寂しい思いをしていたのだと分かりました。

 言葉でのコミュニケーションが難しい方でも体に直接触れることで思いを共有することができたと思います。寂しさを感じている利用者さんに温もりを伝えられる方法のひとつとしてスキンシップを有効に活用できればと思います。

生活習慣に寄り添って、ゆっくり眠れる

 もうひとつ紹介させていただくのは特別養護老人ホームで暮らす、Sさん60代アルツハイマー型認知症の女性です。Sさんは昼夜逆転が激しく、深夜から朝方に眠り始めることが多く、日中に眠ってしまいます。夕刻に一度布団には入るのですが、眠れずに起きてきてユニット内を徘徊したりスタッフステーションで熱心に棚の中のものをいじったりしていました。

寝ないよ

 その日の夜もやはり眠れずスタッフステーションで棚の洋服をいじっていました。「Sさん、眠らないの?」と問いかけると「寝ないよ」とはっきり言われてしまいました。それでもと思い布団に誘い、入眠を促しました。

 そこで、「あんたは?寝ないの?」と逆に訊かれました。そこで「じゃあ私も寝ようかな。布団を借りてもいいですか?」と言ってみると「いいよ。おいで。」と布団の隅を空けてくれました。そのまま布団に自分が上がりこんでSさんが寝付くまで添い寝をしました。するとその日はそのまま朝まで休まれていました。

少しでも入所前の生活に近く

 施設に入所する前Sさんは旦那さんと二人暮らしで、寝るときは一緒に寝ていたそうです。そんな話を以前聞いたのを思い出し、少しでも寝るときの環境を自宅にいる時と近づけられればと思いました。

 落ち着いて眠っている姿を見ると、環境の変化に適応することの難しさを感じます。例えば自分が家を離れて知らない人たちの中で生活することになったらどうなのか。考えただけでも居心地が悪いです。そんな生活をしている利用者さんにどのようにアプローチしていくかが鍵になると思います。

最後に

 施設に入所されている方は住み慣れた環境から離れて暮らしています。他人と共同生活を送る中で寂しい思いをしている方、落ち着かない空気を感じている方が多いはずです。そんな利用者さんにどのように接すれば心穏やかに過ごしてもらえるか。今回はそれがタクティールケアや添い寝だったわけですが、利用者さんの気持ちや想いに寄り添ったケアが大切なんだと感じます。

 特別養護老人ホームという施設に入所されている方のほとんどはここが終の住処になります。少しでも心穏やかに生活できればいいと思いますし、そのアプローチをすることが介護職員の使命でもあると感じます。

[参考記事]
「認知症の人とのコミュニケーションで大事な要素とは」

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