Dさん(70代男性)は介護度2でデイサービスを週3回利用し、妻との2人暮らしです。前頭側頭型認知症の診断は受けていたのですが、特に問題行動がなく過ごしていました。
デイサービスも男性利用者が多いという珍しい所で、囲碁や将棋、マージャンなどを楽しくしていました。身体状況も自立し、日常生活も支障なく過ごしていました。ケアマネである私も特段問題がある状況ではないと判断していました。
ところが、担当して3年ほど経過した頃に、妻より連絡があり「夫が近所のスーパーで万引きで捕まった」との連絡がありました。「あなたにも付き添ってほしい」とのことだったので一緒にスーパーまで行き、状況を確認しました。盗んだ品物は歯ブラシと石鹸でした。
私が「家にもう歯ブラシも石鹸もなかったの?」聞いたところ、「ある」と本人。「ではどうして盗んだの?」と聞きなおすと、「なんとなく」とのことでした。
スーパーの店長さんは「ウチで万引きされたのは初めてなので商品の支払いだけしてもらえば、警察にも連絡しません」と温情の対応をしてもらい、妻が支払い自宅に戻りました。
私は少し心配ながら他の業務があるため、スーパーで別れました。
・2週間後、今度は警察沙汰に
それから、2週間ほど経った頃に妻より連絡があり、「また夫が同じスーパーで万引きした」との連絡があり、急いでスーパーで妻と合流しました。今回盗んだものは、塩とアンパンでした。「お腹がすいてたの」と本人に質問すると、「減ってないよ」と悪びれた様子もなく答えていました。
「ではなんで盗んだの?」更に質問すると「なんでだろうなぁ」と要領を得ない答えでした。今回で2回目の万引きになるので店長は少し怒り気味で「今回は警察に通報させてもらいます。」と話され、警察がやってきました。
その後警察署まで行って事情を聞かれたので上記のような状況だったと私より説明しました。警官は「今回は始末書で済ませますが、次発見されたら始末書だけでは済まなくなりますよ」と念押しされました。
そして、気になったのが、本人が全く字が書けないことでした。そのため、妻が代筆し押印だけ本人が行いました。
・前頭側頭型認知症は盗癖が症状のひとつ
そこで私は、病名が前頭側頭型認知症であることを思いだしました。前頭側頭型認知症には盗癖の「症状」がかなりの頻度で出現するとの論文の報告を思いだしました。
そのため、妻に1度主治医に相談しましょうと提案し、妻は同意してくれました。受診の際、主治医に事の経過を相談したところ「前頭側頭型認知症の特徴ですね、ただし、薬などの治療では改善しないので、周りの理解やフォローが必要になります。」とのことでした。
・周囲への説明が大事
そのためまずは盗みをしたスーパーに状況を説明し、万引きは病気の症状が原因であることを説明しました。
結果として、今後も万引きが続く可能性があるので、その時はまず妻に連絡をしてもらえるようにお願いし、店長も了解してもらえました。
前頭側頭型認知症は感情の抑制のコントロールが難しいので様々な場面で場違いな行動をとってしまうので、そのため本人は万引きしたとは思ってはいなかったのでしょう。
このような症状が現れたら、周りがサポートする必要があることを痛切に感じたケースでした。
その後も万引きは治まりませんでしたが、周りの方々が理解してもらえるので今は継続して生活されています。
[参考記事]
「前頭側頭型認知症ってどんな症状があるの?」
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