夜中になると認知症による幻覚や幻聴に悩まされるHさん(84歳・男性)。身内もおらず、お一人で暮らされていました。
私は地域の相談員をしているのですが、ある日、近所の方から「最近Hさんが夜中に『火事だー!!』と叫んだりフライパンを鳴らしたりしてうるさい。どうにかならないか。」と電話がありました。
とりあえず近所の方とお会いし、お話を伺うと、これまでは特に問題はなかったが、3ヶ月ほど前から廊下で排尿をしてしまったり、認知症かな?と思うような行動が見られたとのこと。
それがここ2週間ほどは、夜中になると突然叫んだり、フライパンを叩くので周りの住民も毎晩寝不足で困っているとのことでした。
地域住民とも険悪な関係
そこで、まずはHさんともお話しをしてみることになりました。Hさんには「地域の人に暮らしていて困っていることはないか調査をしています。」と言って伺い、お話しを聞くことに。それとなくなぜ夜中に突然叫ぶのか?、フライパンを叩くのはどうしてか?を聞いてみると、Hさんは戦争の話をし始めました。
認知症高齢者の方は戦争を体験している人が多いので、戦争体験がフラッシュバックすることがよくあります。Hさんは夜中になると空襲のサイレンが鳴り、外が火事で燃えているからそれを知らせているとのことでした。
Hさんも嫌がらせでこのようなことをしているわけではないのは分かるのですが、周りの地域住民にとっては迷惑行為にしか見えません。次第にHさんと地域住民との関係も悪くなってしまいました。
ますます地域から孤立しそうになったHさん。地域住民の方たちも眠れずに困っていました。しかし忘れてはいけないのが、一番困っているのはHさんだということです。Hさんは毎晩、空襲のサイレンや火事に悩まされています。そこでHさんの苦しみを除くため、関係者を集めて地域ケア会議を開催しました。
幻覚や幻聴の治療に専念するため精神科へ入院
地域ケア会議で出た結論は、Hさんに一度入院してもらい、幻覚や幻聴の治療に専念できる環境を整えた方がいいのではないかということになりました。後日、Hさんの同意を得るために話をしに伺いましたが、Hさんは「入院なんかする必要はない!」と拒否されます。
しかし、Hさんは「空襲のサイレンなどが聴こえて眠れなくてしんどい・・・」とポロっとこぼすこともあり、私たちは「Hさん、眠れなくてしんどいなら環境を変えて少し休みませんか?」と提案しました。
それにはHさんも同意され、一緒にHさんと病院へ行きました。Hさんが病院は嫌だと言ったらどうしよかと思いましたが、「安心して休めるのなら良かった。」とおっしゃったのでそのまま入院し、治療を行うことになりました。
後日お見舞いに行くと、とても元気そうなHさん。処方された薬もHさんに合っていたようで、とても穏やかになっていました。
身寄りのないHさんのため成年後見人を立てる
ここでもう一つ問題なのが、Hさんは年金生活のためご自分でお金の管理もされていました。しかし、認知症が進行しているため段々とできなくなってきており、入院費用の支払いや今後のことを考えると、成年後見人を立てた方がいいのではないかという話になり、「市長村申立て」を行うことに。
基本的には親族がいれば親族が行うのですが、Hさんのように身寄りのない人は、まず本当に親族がいないかを調査してもらい、申請できる人がいないことが分かってから市町村申立てを行います。
Hさんは身寄りがいなかったので無事に市町村申立てを行うことができ、無事に成年後見人を立てることができました。
このようにHさんの幻覚や幻聴による苦しみを取り除くのはどうすればいいか、その後の支援はどのようにすべきか、Hさんを中心に考えることで良い方向へと進むことができました。
[参考記事]
「認知症の周辺症状ってどんな症状なの?」
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