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夜間に徘徊を繰り返す認知症の人への対応。原因は夫との思い出

 

 Iさん(80歳女性)はアルツハイマー型認知症の発症で特別養護老人ホームに入所することになりました、75歳を過ぎたころから忘れっぽくなったことを機に認知症状が出始めました。

 認知症が進行するにつれ徘徊を繰り返すようになったことから、家族が家を留守にすることもできなくなったことから施設に入所することになりました。

 特別養護老人ホームでは昼間でも部屋から出てくることが少なく、訪ねてみると寝ていることが多くありました。ホールにでてきませんか?と誘うと拒否することなくホールに出てこられ、他の入所者さんと楽しそうにお話されるのですが、気が付くとお部屋に戻ってベットに横になってしまいます。声をかけると何事もなかったようにホールに出てきては戻るといった行動を繰り返していました。

 その反面、夜になると徘徊を繰り返すIさん。その行動の原因を探り、夜間の徘徊を少なくすることができた事例をお話します。

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<Iさんの夜間徘徊>

 もともとお花の先生をされていたIさんはレクレーションに対しては「そんな幼稚なことできないわ」と笑われるだけで参加しようとはされませんでした。

 Iさんが活発になるのは決まって夜電気が消えてからでした。昼間に寝てしまうので夜間になるとしっかり目が覚めてしまいます。宿直のスタッフはいつも「寝る時間ですよ」とお部屋に戻ってもらうのですが、その時は「あらそうね、もう寝るわね」と言われるものの5分もするとまた部屋から出てきて徘徊する行動を繰り返します。

<Iさんが夜徘徊を繰り返す原因を探り対応を練る>

 家族によると自宅では昼間に徘徊することはあったが夜徘徊することはなかったとのことでした。

 宿直のスタッフからはIさんの夜間の徘徊のために他の仕事がなかなか手が回らないので困るとの意見が多くあがりました。

 そのため何故、家では昼間にみられた徘徊行動が施設では夜の徘徊になっているのか、夜間徘徊するIさんと一緒に歩いてみることにしました。するといつも何かを探しているようにキョロキョロしながら歩いていることが分かりました。ただ黙って並んで歩いていたのですが、その行動は誰かを探しているようにも見えました。

 「誰かお探しですか」と尋ねると今までずっと横に並んで歩いていた私に初めて気が付いたようでした。「あら、こんにちは、主人がね、まだ帰ってこないのよ、遠くに行ってはダメとあれだけ言ったのにどこに行ったのかしら」と返事が返ってきました。

 「奥さんうちの主人見なかった?すぐに迷子になってしまうの」スタッフの私を近所の奥さんと間違われているようでした。「ご主人はいつもお散歩に行かれるのですか?」と私が尋ねると「そうなの、私がいないといつも迷子になってしまうのよ」と答えました。

 「ご主人はお自宅に先に戻っているかもしれませんよ、今夜はもう遅いので明日にしませんか?」と声をかけると「そうね」とお部屋に帰ってそのまま朝まで休まれました。翌日、同じように昼間は部屋で過ごすことが多いIさんでしたが私のことを近所の方と間違われることはありませんでした。

 実はIさんのお主人はIさんと同じアルツハイマー型認知症を患い、他の施設に入所されていました。ご家族にIさんとお主人の様子を尋ねると、ご主人も徘徊があったので、Iさんはいつもご主人が行きたいところにいつも連れ添っていたとのでした。その頃はまだIさんは認知症を発症しておらず親身にご主人の介護をされていたとの事でした。

 Iさんの徘徊はご主人との思い出を原因として現れる行動であると考えられました。

 しかし、なぜ夜になると徘徊することになるのか、そこで考えられたのは昼間は賑やかで人の出入りがあるが夜になると周囲も静かになるため自宅を思い出すのではないか?また昼間の行動が少ないため昼と夜が逆転しているのではないかとも考えられました。

 そこでお花の先生だったIさんに花の図鑑を見せてみました。さすがお花の先生をされているだけあり、花の種類などにはとても詳しく楽しそうに話してくれるようになりました。庭の花を見に行きませんか?の誘いにも乗ってくれるようになりました。

 それだけでは昼間の活動にはつながらなかったため花壇の花の水やりをお願いし、ホールなどに飾るお花を生けてもらう役目をIさんにお願いするようにしました。役割をもったIさんは徐々に昼間に部屋に籠ることもなくなり、夜間の徘徊も少なくなってきました。

 それでも夜間にご主人を探しに行く行動が完全になくなったわけではありません。そこでIさんが夜部屋から出てこられた時には「ご主人は先に家に帰られたみたいですよ、さきほどお見掛けしましたよ」と声をかけると安心したように部屋に帰られるようになりました。

<まとめ>

 Iさんの問題とされた行動の裏にはご主人と過ごされていた日々の出来事が大きく関係していました。

 また、お花の先生をしていたIさんはたくさんの生徒さんを相手に指導する側に立っていました。そのIさんにとって施設でのレクレーションは職員が指導する側で、自身が生徒の立場に思えたため嫌だったのかもしれません。

 認知症を患った人でも昔の思い出やその人の立場などはそう簡単に忘れることはありません問題と思われる行動の背景には、その人が生きてきた背景が大きく影響していることが多いです。そこに焦点を当てることにより原因を探り、対応していくことでその人らしく過ごしていける手助けができるのではないかと考えます。

[参考記事]
「夜に裸で外出する認知症女性の徘徊を地域で支えた事例」

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