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認知症の人の「家に帰りたい」という願望。どう対応すべきか

 

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Aさんの初期症状、そして入所へ

 特別養護老人ホームに入所したAさんはアルツハイマー型認知症。とても面倒見がよく笑顔の素敵な女性です。

 施設へ入所前、Aさんは二世帯住宅で家族と共に暮らしていました。Aさんの異変は物忘れから始まりました。しばらくすると自宅から出たゴミを近隣の家の庭に捨てるという行為に進行。住民から苦情が出て初めて家族もその行為を知ることになりました。

 身体は元気で足腰も丈夫なAさん。家族はその行為を止めることはできず、Aさんは施設へ入所することになりました。

「帰りたい」と訴えるAさん

 Aさんは自分が施設にいることが受け入れられず混乱しました。「どうして私はここにいるの?帰りたい。帰らせて」と毎日訴えました。時折、ヒステリックな様子も見られるようになりました。家族も面会に来ますが、帰らせてあげられない現実に辛い時間を過ごすことに。

 家族は認知症になった親や祖父母を施設へ入れることに対し、強い葛藤があります。認知症を抱える人と自宅で暮らすことは家族にとり大きな負担です。しかし、認知症とはいえ大切な家族に変わりはありません。そんな時、面会に行った施設の職員が優しい対応をしてくれていると家族の気持ちは救われるのです。

「帰りたい」と、訴える人への対応

 「帰りたい」と、訴えるAさんへの対応はまず、Aさんの話を傾聴するところから始めました。相手の話を引き出すにはまず信頼関係を築くことが大切です。

 職員の一つ一つの動作、行動を利用者は見ています。ですのでAさんが話しやすい雰囲気が職員から出ているかどうか、普段の行動から気を付けました。そして、「おはようございます」のあいさつや「元気ですか?」など、日ごろの声掛けを大事にしました。

 施設の介護現場は忙しく、利用者一人一人の訴えに対して耳を傾けることは容易ではありません。職員が普段よりも多い時には庭へ一緒に出たり、施設内を歩いたり、二人になる時間を持つように心がけ、静かにゆっくりと向き合う時間を作りました。もちろん話を聞く側も心を落ち着かせていることが重要です。

 Aさんの「帰りたいの。帰らせて」という話をゆっくりと傾聴しました。そしてどうして帰りたいのか、Aさんの家族やお孫さんの話や昔のこと、得意なことなどを詳しく傾聴しました。そしてAさんの訴えに対して「共感」しました。「そうですね、住み慣れた家はいいですよね。素敵なご家族ですね。家に帰りたいですよね」と…。

 中には「家には帰れませんよ」とストレートに伝える職員もいますが、絶対してはいけないことです。もちろん家には帰れませんが、傾聴する側は共感することが大事なのです。そして一緒に悲しむ態度をとることです。

Aさんの変化

 数か月間、帰りたいという訴えは続きました。しかし、話を傾聴してくれる職員を信頼し、頼る姿も見られるようになり、施設へも慣れていきました。「施設には自分の気持ちを分かってくれる人がいるのだ」と、施設で暮らすことへの安心に繋がったのです。そして、Aさんの「帰りたい」は無くなりました。

施設と家族ができること

 家に帰れない代わりにできることを施設の職員と話し合いました。家族にも加わってもらい、会議をしました。そして決まったことが、月に1度、家族とAさんが一緒に外食をする時間持つこと。そして、季節の行事に参加してもらいAさんと過ごしてもらうこと。

 家族もAさんのために何かしたいが、何ができるのか分からなかったそうです。施設からの提案に家族は喜びました。Aさん、家族、職員、三者の気持ちが上手く融和しました。利用者、家族、双方の気持ちを傾聴することが大切だと改めて感じました。

 今は月に一度の外食を楽しみに、Aさんの生活は落ち着いています。終の棲家といわれる特養でどのような生活がその人らしくあるのかを日々追求しています。

[参考記事]
「帰宅願望のある認知症の人に有効な対応策」

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