Read Article

広告

帰宅願望のある認知症の人に有効な対応策

 

 認知症のさまざまな周辺症状の中でも、帰宅願望が強い人への対応は多くの介護職員が苦労しています。

 職員の働きかけで症状が収まる人もいますが、中には職員の対応では追い付かず施設の建物から出て行こうとする人もいるため、施設内に一人でもこのような認知症患者がいると介護職員は気が抜けません。

 ここでは、実際の介護現場での事例をもとに、帰宅願望がある人への有効な対応策を示していきたいと思います。

広告

帰宅願望の強いMさん(80代後半・女性)

 80代後半のMさん(女性)は数年前にご主人に先立たれ、家族の勧めのもと施設に入所することになりました。

 入所当時から帰宅願望が強く、ふと気が付くとMさんが席から立ちあがり、部屋の出口を探してキョロキョロと辺りを見ながら歩き回っている…ということが日常茶飯事でした。

 幸い、足腰は丈夫な方なので転倒の恐れは低いものの、職員の目の届かない場所へ勝手に行かれてしまっては困ります。

 職員が何かと興味を引き付け、部屋に留まるように誘導するのですが、またすぐに席から立ちあがり「そろそろ帰らないと…」と言いながら部屋から出て行こうとするので、そのたびに職員は対応に追われ他の作業が手薄になってしまうという問題がありました。

 そんなMさんに対し、実際に効果のあった方法を見ていきます。

場所を変えて気分転換をする

 施設では、日々工夫を凝らしたレクリエーションをおこなったり、時には外出をして買い物や食事を楽しむイベントもあります。

 しかし、普段の日は室内でただ淡々と時間が過ぎていくだけで、レクリエーションの参加を拒否する入居者には無理強いをしないため、人によってはひどく退屈に感じるものです。

 変わり映えのない環境で長い時間じっとしていると、どうしても意識が自分の内面に向いて不安や焦燥感が強く出てしまうことがあり、帰宅願望もその一つです。

 帰宅願望の症状が強く出ている場合は、相手はそのことしか考えられなくなっています。そのため、どんなに職員が説得したところで、聞く耳を持たず、とにかく家に帰りたがるのです。

 その際に有効な手段は、気分転換をして帰宅願望から意識を反らすこと。例えば職員と一緒にテラスに出て外の空気を吸ったり、敷地内を少し散歩して景色を眺めたりなど、少し場所を変えるだけで気分がリフレッシュして帰宅願望が薄れることがあります。

帰宅願望の原因を探る

 帰宅願望が出るということは、本人はそこが自分の住む場所だと思っていないということです。それはつまり、自分が住む本来の場所は別にあり、そこで何か自分の役目があったり、自分を待っている人がいると思っているのです。

 Mさんにとってそれは、「早く家に帰ってご主人の食事の支度をしなければいけない」という使命感でした。

 原因が分かれば対策を立てやすくなります。Mさんの場合は、「ご主人は今夜は外でお友だちと食事をしてくると言ってましたよ」などと言うと、「あら、そうなの」とすんなり受け入れてくれることが多かったです。

 なるべく平和的に帰宅願望を解消するには、まずはその原因をさぐることが先決。なぜこの人はこんなに家に帰りたがっているのだろう?というのをまず最初に考えてみることが大切です。

■何かの作業をしてもらう

 もうひとつ、実際に効果があったのが「作業をしてもらうこと」。とりあえず帰宅願望から気持ちを反らすために、目の前のことに集中してもらうのです。

 例えば、タオルなどの洗濯物を畳んでもらう、塗り絵をしてもらう、折り紙を折ってもらうなど、簡単な手作業が向いています。

 コツは、「○○のためにいついつまでに仕上げなくてはいけないので手伝ってほしい」などとお願いする形でやってもらうこと。そして職員も一緒に関わり、話をしながら楽しい雰囲気を感じてもらうように努めることです。

 この方法は、帰宅願望により興奮状態のときにはあまり効果がありません。できれば、利用者がそわそわし始めた頃に上手なタイミングで声掛けをして誘ってみるのがおすすめです。

■まとめ

 これらの方法はあくまで一例に過ぎず、効果のある人もいれば、まったく通じない人もいるかもしれません。

 大切なのは、ひとりひとりの背景や気持ちをさぐって相手を理解し、それぞれに合った対応をしていくことです。その人にとって居心地の良い環境を作っていくことが、帰宅願望をはじめとした不穏状態を解消していく鍵になるのです。

[参考記事]
「認知症による帰宅願望が音読によって解決した事例」

URL :
TRACKBACK URL :

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

Return Top