認知症のSさん(80代女性)は、とても喜怒哀楽の激しい人です。認知症がかなり進行しており、5分前の出来事もすぐに忘れてしまい、同じ質問を繰り返すことがたびたびあります。
Sさんはご主人に早くに先立たれ、女手ひとつでお子さんを育て上げてこられた非常に気骨のある女性。そのため、人に世話を焼かれる事を嫌い、介助を極端に拒絶するため、介護職員は対応に困っていました。
■Sさんが介護拒否をする理由
介護職員がSさんの着替えなどを手伝おうとすると、「ひとりで出来るから大丈夫!」とか「人の助けなんかいらないよ!」などと語気を荒げます。つまり、Sさんは人の手を借りることに非常に抵抗感があることが分かります。
しかしSさんは、着替えをすることはおろか、ひとりで歩くことすらままなりません。衣食などの身の回りのことのほとんどが、Sさんひとりではとてもまかない切れないのが現状でした。
ところが、戦後の厳しい時代を女手一つで渡り歩いてきたSさんにとって、自分の世話に人の手を借りることなどプライドが許さないのでしょう。
Sさんにはその現実が受け入れられず、介助をしようとする職員を頑なに拒絶し、その結果たえずSさんの介助には職員とSさん双方に大きなストレスが付きまとうことに…。
着替え、入浴、服薬、トイレ誘導などなど、生活にかかわる多くのことを頑なに拒絶するSさんへどう対応したらいいのか分からず、十分な介護が行き届かないこともありました。
■介護拒否に対する具体的な対応策
拒否が強い相手に対し、無理強いをするのはぜったいに禁物です。なぜなら、認知症とは言え嫌な思いをした時の気持ちは後々まで残ることもあり、Sさんと職員の関係にさらに悪影響を与えてしまうからです。
そこで、拒否をされた時はいったん引き下がり、Sさんの嫌だと思う気持ちを尊重することに努めてみました。そして、Sさんが落ち着いてきたころを見計らって、別の方向から着替えやトイレなどを勧めるようにしました。
例えば着替えの場合は、ただ「着替えをしましょう」ではなく、「洗濯係の人が来ているので、Sさんのお洋服もお願いしましょうか?」とか、体を痒がる素振りなどを見せたら「背中に何かできているかもしれないのでちょっと見せてくれますか?」と言って、自然に衣類を脱いでくれるような状況を作るのがコツです。
またトイレ誘導も、部屋にいる時に誘っても嫌がられることが多いため、他の理由で一緒に廊下を歩き、ちょうどトイレを通りかかったタイミングで「ついでだから…」と誘導すると、すんなりトイレに入ってくれることもありました。
このように、「ついで」を装う雰囲気を作り出すことで、Sさんも激しく拒否をすることはなく、こちらの話にも耳を貸してくれるようになったのです。
■まとめ
どのようなケースでも、こちらの都合に従ってもらうという姿勢ではなく、あくまでSさんを気遣ってのことだと、Sさん自身に伝わる形で勧めることがスムーズな介助につながります。
さらに、拒否が長く続いている人は、「着替え」や「お風呂」といった言葉に敏感に反応しがちですので、あえてその言葉を使わずに誘導するのもひとつの手段。
Sさんの拒否は相変わらず続いていますが、職員の対応レベルが上がって来たことで最近は以前より格段にスムーズな介助ができています。
介護職員の関わり方がいかに大切かということに気付かされた事例でした。
[参考記事]
「介護拒否の理由は長男の死という精神的なショック」
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