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息子の妻が殺害され、統合失調症と脳血管性認知症に(実例)

 

 Aさん(75歳男性)は、過去に事件に巻き込まれたときの精神的ショックで統合失調症となりました。その事件というのは、車で10分ほどの地域に住んでいる息子夫婦が逆恨みによる事件に巻き込まれ、息子の妻が殺害されたのです(大きすぎる内容のため個人ファイルには記録としては残していません。奥様から直接お聞きしました)。

 そのショックで頭の中に「ボク」という人が現れるようになり、その「ボク」といつも会話しているという幻聴がある方でした。Aさんはデイサービスの利用者様で、その幻聴の主のことを「ボク」と呼称しており、「ボク」から指示をされた、頼まれた等と訴えて突拍子もない行動をする状態でした。私が入社して、初めて当たった壁でした。

 Aさんは、常に幻聴に起因する妄想状態、かつ脳血管性認知症(Aさんは脳梗塞を経験)による感情失禁もあり、周囲からの助言や声がけに対しても耳を傾けず「余計なことを言うな!俺はボクと相談してやっているんだ!!!」と怒鳴り散らしたりする状態で、奥様も大変困っていました。

 それだけでなく、「ボク」の命令するままに事業所の物や他利用者様の物を自宅に持ち帰ってしまったり、逆に自宅で使っている物を「あげる」と話して事業所に持ち込んでくることもありました。その都度、奥様から物を返してもらったり、逆に奥様に物を返したりということをしておりました。

 統合失調症や脳血管性認知症のため、本人にはどうしようもないことですが、事業所の物を勝手に持ち帰るのはまだしも、他利用者様の物まで気づいたらいつの間にか持ち帰っているという状況は問題でした。実際に他の利用者様の家族から苦情が来ています。

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幻聴に対する対策

 私たち職員としては、とにかく「Aさんに「ボク」とお話している世界よりも現実の世界で生きてもらいたい」と考えて対策を取りました。

[対策1]
元々自宅でも、この年代の方には珍しく料理をやっていた方だったので、生活リハビリ、作業療法という名目で調理の手伝いを日中活動としてやっていただきました。調理職員の指示の元、食材を必要な大きさにカットしたり、皮を剥いたりしていただきました。

[対策2]
他の利用者様に対するお茶出しや片付けなどもお手伝いをお願いしました。休憩時間にお茶とお菓子を出して、そのゴミも片付けて、その後にテーブルも拭いてもらいました。

[対策3]
折り込みチラシを用いたゴミ入れを作ってもらいました。
チラシをゴミ箱の形に折りたたむ折り紙のような作業です。

幻聴に対する対策の効果

 このように「妄想に惑わされている暇がないほど忙しい」という状況を作り出したのです。

[効果1]
本人も「誰かの役に立っている」という充実感や満足感を抱くことになり、幻聴に惑わされることも少なくなってきました。ほぼ毎日登場していた「ボク」が週1~2回程度に減りました。

[効果2]
また、適度な疲労感により、自宅でも夜ゆっくり眠ることができるようになりました。

[効果3]
以前は様々な理由を述べてデイサービスを休もうとしていたのですが、デイサービスへの通所が「仕事に行く」ことだと表現するようになり、休むことがなくなりました。元々のAさんは公務員でしたので、勤勉な性格の賜物だと感じました。

[効果4]
入浴拒否も、「汗をかいたから」ということですっかりなくなりました。

[効果5]
本人だけでなく、周囲の方もこれに刺激されて「自分もやってみたい」と同様な家事を通した生活リハビリに興味を示すようになり、事業所全体に活気が出てくる副産物まで生まれました。

 この方は、現在も元気に活動しています。私が入社当時からいた方なので、それだけでも約12年間、大きく体調を崩すことなく経過していることになります。一つの対応策で、本人だけでなく周囲の方の課題もまとめて結果的に解決したと言えるケースでした。

[参考記事]
「脳血管性認知症ってどんな症状があるの?」

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